高齢化と医療過疎の時代に
求められる技術とは?
泰川氏らの訪問診療を支えた力の一つが、ゼネラル・エレクトリック(GE)のヘルスケア事業部門であるGEヘルスケアの日本法人、GEヘルスケア・ジャパンの携帯型超音波診断装置だ。
この装置は携帯電話ほどの大きさで、訪問先にも手軽に持ち運べ、片手でも簡単に操作できるのが特徴。そのうえ、心臓の動きや腹水・胸水、子宮内の胎児の様子などを優れた画質の超音波画像で確認できる。寝たきりの患者や、被災によって病院に来られない患者でも、自宅に居ながらにして病院と同等の検査を受けることができるのだ。
持ち運びに便利なこの装置は、避難所生活を強いられている被災者の診断にも活用された。
妊婦の検査に利用した前出の千坂氏は、「胎児の様子や心拍の状態が簡単に調べられるだけでなく、妊婦と一緒に胎児の画像を確認して、安心させてあげることもできます」と語る。
岩手県大船渡市で避難所に暮らす人びとを診療した、ちば内科診療所院長兼釜石のぞみ病院内科医師の千葉誠氏は、GE本社の社会貢献活動組織であるGEファンデーションが被災地に無償提供したポケットサイズのこの装置を活用した。
「聴診器だけで診断するのに比べ、鮮明な超音波画像で心臓の動きを確認できるのは医師にとって心強い。おかげで、避難所生活で不安になっている患者さんたちに自信をもって『命に別条はありません』と言ってあげることができました」(千葉氏)
高齢化と医療過疎が急速に進むなか、日本全国において訪問医療のニーズがますます高まっていくことは間違いない。
患者が病院に来るよりも、医師が患者の元に向かうことが増える時代においては、よりコンパクトで高性能な医療機器への期待が高まることだろう。高次元の超音波診断技術を手のひらサイズに凝縮した携帯型のこの装置は、その先駆けになるといえそうだ。