〔図表 1〕の下方にある緑色の線を「損益操業度売上高(サポート-ライン)」と呼ぶ。世に広く知られた「損益分岐点売上高」と同様に、実際売上高が緑色のサポート-ラインを下回ると赤字に転落する。どちらの売上高も赤字に転落する境界線に変わりはないが、同列に見られては、筆者にとって迷惑な話なのである。

 まず、損益分岐点売上高のほうは、伝統的な経営分析や管理会計の世界で絶対的通説の位置を占めるCVP分析(Cost-Volume-Profit:損益分岐点分析)に基づいて導かれる。これは「今日稼いだキャッシュは明日へ再投資せず、金庫に死蔵する」という単利計算に基づく。これが如何に非現実的な仮定であるかは、本連載の読者ならご存じだろう。

 企業が決算短信で開示している「連結業績予想」はこのCVP分析に基づいて行なわれ、外部の第三者が行なう評価もCVP分析に基づいて行なわれる。企業も第三者も非現実的な仮定の下で計算を行ない、その分析結果に対して首を傾げているのだから涙を誘う話だ。

 SCP分析(タカダ式操業度分析)から導かれる損益操業度売上高のほうは、「今日稼いだキャッシュは明日へ再投資する」という複利計算に基づく。年に1回の複利計算ではなく、企業は日々複利の活動を行なっていると仮定する。こうした分析手法の違いは、以下で説明するように、家電量販店に対する解釈を異にする。

家電量販店は本当に「変動費型ビジネス」か
固定費に6倍も差がある理由

 家電量販店は「薄利多売」の典型だ。販売価格をどこまで値下げできるかが勝敗を分ける。ヤマダ電機では2011年10月から、インターネット通信販売での「値引き交渉」に応じるまでになった。

 CVP分析(損益分岐点分析)では薄利多売の特徴として、変動費率(変動費を売上高で割った比率)が大きく、また、固定費が小さいことを指摘する。そこから「変動費型ビジネスの典型だ」などと主張する。

 しかし、家電量販店を訪れたことのある人なら、その広大な敷地と巨大な店舗を眼前にして、固定費が小さいなどという感想は持たないはずだ。それをケーズHDのデータ〔図表 2〕で確認してみる。

 〔図表 2〕にある黒色の線は、CVP分析で計算した固定費だ。「CVP年間固定費」としている。2007年ではマイナスに転落しており、CVP分析が破綻していることを示している。2008年以降、プラスに転じたとはいっても、2010年以降で500億円を超えるのがやっとだ。売上高が7700億円に達する企業の固定費が500億円程度でいいのかどうか。

 〔図表 2〕にある赤色の線は、SCP分析(タカダ式操業度分析)で計算した固定費だ。「SCP基準固定費」としている。右端の11/6(11年6月期)では3000億円を超えている。CVP年間固定費の約6倍だ。

 総コスト(=変動費+固定費)に占める固定費の割合を、3社について調べてみたところ、CVP年間固定費は7%~9%(変動費は91%~93%)、SCP基準固定費は39%~41%(変動費は59%~61%)になっていた。どちらが現場の感覚に近いか。火を見るよりも明らかだろう。

 CVP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)を利用する人は、教室やオフィスに引きこもっていないで、家電量販店の敷地に立ってみるといい。「変動費の割合が高い業種だ」という定義が、まったく愚かなものであることに気づくであろう。

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出店意欲はあるのに、在庫水準は横ばい 浮かび上がる家電量販店の「先行き弱気」

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