「たとえば、過去の製品企画プロジェクトを参考にしようとしたとき、関連する資料が部分的にしか保管されていないと、プロジェクトの全容がつかめず、意思決定のプロセスをたどることもできません。また、過去に構築した情報システムに関しても、完成品だけではどんな意図でつくられたのかわからない。企画書から要件定義書、見積もり、会議の議事録、取引先との電子メールでのやりとりなど、あらゆる情報を『ケース』で一元的に管理しておく手法が有効です」

 案件に関するすべての情報を発生した時点でケースに保管するのがその基本的なルールだという。紙の文書ならスキャンして電子化し、電子メールなら受け取るたびにケースに入れる。情報を検索する際はケースの中身を見ればいいので、探す時間が短縮できる。過去の案件情報が参照しやすいので、情報の有効活用になる。すべての履歴が保存されているので、説明責任を求められた場合にもすぐに提出できる。デンマーク政府などでは、ケース管理の概念で情報の管理が行われているという。

製品企画のプロセスを見ても、調査から製品化の承認までに多種多様なドキュメントが介在することがわかる。業務の流れや変更の履歴がわかるかたちで、すべてのドキュメントを管理するのが「ケース管理」の手法だ
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詳細なルール設定が
運用のカギ

 もちろん、有効な手法やツールを導入したとしても、それを生かす運用方法がなければ大きな効果は期待できない。

「以前行った調査では、ほとんどの企業が『文書の記録管理に関するルールはあるが、普及していない』と回答していました。ルールはあっても、現場にとって不親切であれば普及は難しくなります」

 では現場にとって親切なルールとはどのようなものか。木村氏が調査していて驚かされたのが、米国に本社を置く世界規模の消費財メーカーP&Gのやり方だ。その企業では、ドキュメントの扱いに関する実践的なルールを設け、世界各国の全従業員に対して一定のトレーニングを実施していた。従業員は認定証を取得しなければ文書を扱うことができない。専用の問い合わせ窓口も設け、不明な点はすぐに問い合わせできるなどサポート体制も万全に整えていた。

 ツールと運用によってドキュメントの記録や保管を徹底してこそ、情報の有効活用が可能になるのだろう。

 木村氏によれば、ドキュメント管理の分野で日本企業は、欧米だけでなくアジアの企業にも後れを取っているという。グローバル化が進み、経営リスクも多様化する現在、企業には世界標準を見据えたドキュメント管理の必要性が高まっているといえる。