今日では、国内企業による海外市場への進出が加速し、ビジネスのグローバル化がますます進んでいる。そうした中、海外の有力企業の買収など、積極的なM&A戦略を展開する企業も増加。それに伴い、それら被買収企業を含む海外拠点の財務状況などの情報をいかに正確かつタイムリーに把握し、グローバル全体でのビジネスを適正にマネジメントしていくかが、企業にとっての重要な課題として浮上している状況だ。経営戦略の策定から業務改革、およびITシステムによるその実行に至る総合的なコンサルティングサービスを展開するPwCコンサルティング合同会社にあって、金融領域の顧客支援に当たる押谷茂典氏と、日本オラクルの桐生卓氏の対談により、その課題解消に向けたアプローチを検証する。
グローバルビジネスの強化に向け
「ヨコ串」による情報把握が必須
――グローバルビジネスの展開において、今、日本企業はどのような課題に直面しているものと捉えていらっしゃいますか。
パートナー 金融サービス事業部
押谷 茂典 氏
大手ERP、ITベンダーを経てPwCに入社。国内および海外金融機関における財務・管理会計領域のソリューションチームをリードし、決算早期化、経営管理高度化、ERP/RPAによる業務効率化、シェアードサービス化、IFRS対応等に関するコンサルティング業務に従事。
押谷:国内では人口減少などを背景に市場が縮小する中で、いかに海外市場で収益を上げていくか、つまりビジネスのグローバル化が今日の多くの日本企業にとって重要なテーマとなっています。そうした中で、海外企業の買収なども活発に行われていますが、それらM&A戦略により獲得した被買収企業を含む各海外拠点において、実際に日本の本社側が要求するようなマネジメントが適正なかたちで実現できているかというと、多くの場合、うまくはいっていないという印象です。
日本企業では、財務情報などについて会社単位での報告を求めるにとどまっており、しかも勘定科目やデータの粒度の統一もなされておらず、グローバルな経営管理にはほど遠いと言わざるを得ません。当然、そうした基準の標準化は当然のこととして、例えば金融系でいえば、リテール系、ホールセール系といった切り口、あるいは自分たちの会社のトップ5の顧客についてのグローバルで見たときの取引状況など、会社横断の「ヨコ串」の視点でビジネスを把握できる環境の構築がグローバルにビジネスを展開する企業には不可欠であると思います。
――そうした海外拠点についての「ヨコ串」での財務状況の把握に向けた取り組みに関し、外資系企業、日系企業の間で相違点といったものはありますか。
押谷:私自身、外資系、日系、双方のお客様を担当していますが、両者の顕著な違いはというと、外資の場合には、M&Aの実施後、最初に本社からCFO(Chief Financial Officer)などの人材を現地に配備し、まず本社側にとって必要な財務報告などの仕組みを作り上げていく。つまり現地でのオペレーションに手を入れるのに先だって、例えばダッシュボードなどの仕組みを通じて必要なKPIに関する数字を把握し、パフォーマンスを見ることができるかたちをまず整えるわけですね。
これに対し日系の場合、企業買収後に真っ先に着手するのが、ビジネスのオペレーションにかかわる部分で、会計や財務の報告にかかわる領域は、むしろ下流であると捉え、決して最優先の取り組みテーマとはならない。結果、勘定科目の調整なども後手に回ってしまいます。ことによると、ダッシュボード上などではなく、日本側の上司が現地にいる自分の信頼する部下に直接電話して状況を聞くといった対応をとっているケースなども決して珍しくありません。その結果として、現地でどういうことが起きているかをタイムリーかつ正確に把握することができていないというケースが多いのです。
桐生:なるほど。本社側が拠点の財務情報を、タイムリーにそして、然るべき粒度と基準に沿って入手できる環境を素早く整備することが、グローバルなビジネス展開においては重要なカギとなるわけですね。そうした意味では、まさにERPこそがその実現に向けた重要なプラットフォームとなるわけですが、例えばダッシュボードも含め、すでに20年も前から、経営管理におけるその活用の有用性が日本においても強調されてきたという経緯があります。今まさにビジネスのグローバル展開に臨んで、それらの必然性といったものを日本企業が改めて認識し、然るべき施策を講じていかなければならない段階にきていると言えそうですね。
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