基調講演に続いて行われたパネルディスカッションの様子

 一方、征矢氏も「消費者がモノよりもコトを大事にする時代になったことが、トレンドの先行きに影響を及ぼす変数を増やしている。具体的には、国内のビール業界では10年以上も前から少子・高齢化や若者の酒離れなどの影響によって需要の縮小が継続している。また、食のグローバル化やボーダレス化も加速しており、当社が進出しているベトナムやカナダなど、海外の消費者の嗜好もマーケットごとに緻密に研究しなければならなくなった。突き詰めると、変数が多く不明なものを見えるよう知恵を使い、嗜好だけでなく食に対する消費者の関心の変化にいかに対応していくかが重要」と言う。

「従来、ビールは読みやすい商材だったが、今ではどのビールを飲みたいのかではなく、どこで、誰と、どんな気分で飲みたいのかということを考えた商品開発やマーケティング戦略が重要になった」と述べた。

意思決定のスピード感が
不測の事態を乗り切る力に

ルネサス エレクトロニクス
執行役員常務兼CFO
柴田 英利氏

 柴田氏は、「想定外の出来事に対応するには、数ある変数の中から、どれがトレンドの先行きに大きな影響を与えうるのかを読み解きながら仮説を立てていくことが重要だ。変化の大きさまで予想することは困難だが、少なくとも変化の可能性や方向感はある程度見定めて、リカバリーできるようにしておきたいと考えている。しかし、何より重要なのは、全社員がそうした会社としての方向付けを理解し、行動をひとつにすることだ。ルネサスの場合、グローバルも含めて約2万人の社員が働いているが、どうやったらすべての社員が一丸となって不測の事態に俊敏に対応できる体制がつくれるかという点に課題を感じている」と述べた。

 これを受けて前川氏は、「ルネサスでは、経営の意思決定をどうやって現場に伝え、スピード感をもって実行されるように仕向けているのか」と柴田氏に問い掛けた。

 柴田氏は、「2013年に経営交代したとき、それまで部門ごとにばらばらだった意思決定の権限やルールを全社で一本化した。しかし、このアプローチでは意思決定や伝達に時間がかかり、不測の事態に俊敏に対応できない。そこで現在、各事業本部に意思決定の権限を与え、思い切って動ける体制に戻そうと取り組んでいる。極論すると、財務の結果さえ出せば、何をしてもらっても構わないという体制だ。組織の見直し、指標の選び方・読み方など、試行錯誤を重ねながら不測の事態に柔軟に対応する経営のあり方を模索している」と述べた。