公認会計士が高度な判断業務に
集中できる環境をつくる

四半期報告書の数字が企業の試算表と合致するかを確認している様子。紙は一切用いず、2つの大きなモニターを見ながら、連動するタブレット(写真手前)へタッチペンで書き込む

 オペレーターに採用された社員は、本番と同じ端末を用いた研修室でトレーニングを受け、約1ヵ月で通常の業務がこなせるようになるという。

 写真は、四半期報告書の数字が企業の内部資料である試算表と合致するかなどを確認している様子。こうした作業を効率的にオフロードすることで、公認会計士の負担を減らすわけだ。

 段階的に監査業務の一部を標準化・機械化し、順次AIDCへ移すことによって、公認会計士が高度な判断業務や監査先企業とのより深いコミュニケーションに集中できる環境を整えていく。

 また、オペレーターの習熟度が上がれば、監査品質の向上につながる可能性も。

「例えば、3つの企業を担当している公認会計士は有価証券報告書をチェックする機会が年に3回しかありません。それに対して、AIDCのオペレーターは年に数十社に及ぶ有価証券報告書を精読することになります。そうした経験がスキルアップにつながり、『この記述はおかしいのではないか』などという指摘ができるようになることも期待しています」(杉田昌則・トーマツ監査事業企画室)

センターの設備を説明する矢部誠・トーマツ監査イノベーション&デリバリーセンター長

 当然、本来の目的である、公認会計士の業務軽減にも有効だ。前述したように、2021年5月までに公認会計士が関与する年間業務時間の10%削減を目指すが、「繁忙期は残業続きになる公認会計士の働き方からすると、この時期に1時間でも2時間でも早く帰れるようになるのは大幅な改善といえるでしょう。10%削減といわず、その先の15%、20%まで視野に入れて改革に取り組んでいきたいと思います」(矢部センター長)。

 トーマツの監査イベーションによって監査業務と公認会計士の働き方が大きく変わり始めるかもしれない。

(取材・文/DIAMOND IT&ビジネス 指田昌夫、河合起季)