“努力するほど劣化”というエコ・ジレンマ
大震災の経験から「次なる一手」を導き出す前に、「際限のない人間活動の肥大化」という前提条件を見つめ直してみよう。
石田教授はもともと、企業で環境戦略と技術戦略に携わってきた。先進の環境ビジネスを手がけつつも、常に自己矛盾を抱えていたという。
「循環型社会を実現させるには、ものをつくらないことがいちばんで、ものづくりを旨とするメーカーの進む道とは矛盾します。廃棄物を出さない、資源をなるべく使わずにものをつくるという制約についても、明確な答えがない手探り状態でした」
あるいは、市場にエコ商品が溢れ、生活者の環境意識も高いのに、なぜか家庭での省エネは遅々として進まない。理由は「エコ」という言葉が新たな消費の免罪符になっているからで、高い意識とテクロノジーの掛け合わせで努力すればするほど、環境劣化という負の作用が生じる。これを石田教授は「エコ・ジレンマ」と呼んでいる。
「エコ・ジレンマ構造を打開するには、まず、テクノロジーがどのようなライフスタイルをつくるのか、鳥ちょうかん瞰する視野を持たなくてはなりません。各企業が、テクノロジーに裏づけられたライフスタイルを提案しているかどうかが、問われる時代になってきているのです」
ライフスタイルを想定し直す意味
石田教授は、「社会を変えていく土台」をつくろうと、05年に東北大学大学院で「高度環境政策・技術マネジメント人材養成ユニット」(10年より「環境政策技術マネジメントコース」に変更)を開講した。日本初、世界でも珍しい環境政策・技術・経営のためのeラーニングを主力とする大学院で、高度な環境マネジメント技術を、バックキャスティング的思考を用いて展開できる人材を養成している。
「われわれの普段の思考は、今日を原点に明日や未来を考えるフォアキャスティングであり、そうした思考の延長ではライフスタイルはなかなか変えられません。しかし、30年の厳しい環境制約のなかで心豊かに暮らせる生活シーンを数多く思い描き、そこから必要なテクノロジーをバックキャストで抽出すれば、社会を変えながら環境マネジメントを進めることが可能。テクノロジーがライフスタイルに責任を持つ、望ましい未来が実現します」