つながる世界のマイナス面も見ないと
日本の製造業にとって致命的な損失に
昨年、経済産業省が、我が国産業が目指すべきコンセプトとして、人、モノ、技術、組織などがつながることにより新たな価値創出を図る「Connected Industries」を提唱し、注目を集めた。データでコミュニケーションをしたり、データを介して、組織と組織、活動と活動がつながったりする世界は、ある意味すごく便利だが、一方でとても怖い側面も合わせ持つ。
たとえば、ものづくりの世界で、現場のノウハウや職人の技がデータ化されると、FAのNC(数値制御)プログラムや材料・素材のレシピデータがあれば、3Dプリンターなどを使って、だれも簡単に真似することが可能だ。いままで"秘伝のたれ"として隠し続けてきたものがオープンになると、一夜にして何百年もの歴史がコピーされてしまうことになる。それに対する企業側の警戒心は強い。
特に日本の中小企業は、生産プロセスにおける職人技的な部分によって優位性を維持してきた経緯があるので、彼らがどうつながるかは大きな課題だ。データを利用する側の企業はいいが、製品を生産する側やサービスを提供する側からすると、「そう簡単に言ってくれるなよ」ということになる。一概にコネクテッドしろといわれても、通信事業者やITベンダーはそれで商売になるが、データを出す側からすると、とんでもない話で、なし崩し的に扉が開かれるようになると、日本の製造業にとって、致命的な損失にもつながりかねない。
とはいえ、デジタル化の流れは止められないので、つながる世界は加速度的に広がっていく。先代からのよしみやアナログな信頼関係でつながっていたサプライチェーン(SC)も一気に変わる。いままではA社、B社と取引していたが、データの評価に基づいて、海外にあるC社とも新たに取引を始めることが可能になる。そうなると、C社とのやりとりのなかで、社内のデータやノウハウを守り切れないケースも出てくるだろう。そこで非常に重要な戦略、価値観の転換が必要になる。つまり、コネクテッドするために、どこまで見せるのか、どこから隠すのかといった線引きを、これから本格的なデータドリブンな社会になる前にしっかり持っておかないといけない。
悪意のある第三者がデータを悪用しようとしたときに、いままでは罰則規定がなく、差し止め請求ができなかった。データはものではなく、所有権があいまいなため、盗られたらやりたい放題という状況だったが、不正競争防止法の改正によって、今後はしっかりガードされるようになりそうだ。政府は「Connected Industries」の実現に向けて、オープンにするにせよ、ものづくり企業におけるデータのソースとなるノウハウや知的な蓄積を守らないといけないという意識に変わってきたことは、3年間に比べて大きな前進である。