セキュリティを確保しながら
オープンにつながる仕組みを構築

 もう1つ、IVIが推進しているのが「製造業プラットフォームをオープンに連携するためのフレームワークづくり」だ。米国のようにすべてをオープンにすると、競争優位の源泉となっていた社内のデータやノウハウを守り切れなくなる。一方で、「これは当社のノウハウだから、外には出せない」となると、せっかくの技術も相手に伝わらなくなり、日本の製造業はガラパゴス化してしまう。

 そこでいまやろうとしているのは、クローズドなデータの塊を、セキュリティ道路を通じて、社外や国外に流通させる仕組みだ。データの流通経路や発生源を特定し、トレーサビリティも可能とすることで、データ提供側の権利をきちんと担保する、そのためのフレームワークである。ブロックチェーンなど必要な技術もそろってきたので、今後1年くらいで骨格を固め、実際に動く仕組として海外にも発信していきたい。

 IoT、AI時代に、日本の製造業はどうすれば生き残れるか、欧米企業に対し、競争優位に立てるかといった議論があるが、私が問いたいのは、生き残れるかどうかというよりも、戦略はあるのかということ。生き残るためには戦略というよりも正しい状況の認識と対策が重要となる。競争優位の議論も、比較論に終始する危険性がある。戦略は、景気がいい悪いにかかわらず、これからの製造業のデジタル化の時代のどこをどう我々は攻めるのかということ。戦略があれば、生きるも死ぬも、プレーヤーになれる。

 IoT活用も何となくまわりを見ながらついて行く、キャッチアップ型が多いように思われる。右肩上がりの時代はそれでもよかったが、標準化、オープン化が進むデジタル化の時代においては、戦略なきプレーヤーは競争から排除されてしまう恐れがある。良し悪しはさておき、逆張りの発想で徹底的にデジタル化しないのも1つの戦略だし、とことんデジタル化しオープン化して、つながる相手をとにかく増やすというのも1つの戦略である。正解は1つではないし、正解にたどり着いた人もまだいない。

 企業のトップやマネジメント層はこれまで以上に、テクノロジーに対する目利きが問われるようになるだろう。イノベーションは過去の延長にはない。さまざまな事例や知識があっても不十分で、そこにある深いメカニズム、本質、さらには哲学といったレベルまで落とし込んで考えることができないと、判断を誤ることにもなりかねない。

 3年前、私がIoTについて説明を始めたときに、ピンときた人はどれぐらいいただろうか。いまのAIブームはどこが重要で、どこがバズワードか見極めることができる人ははたして…。

 デジタル化が進展するその先はだれも見通すことができない。IoTやAIを活用すれば必ず儲かるといったことも断言できないし、場合によっては足元をひっくり返される可能性もある。そうしたなかで、何を頼りに企業は進むべきか。テクノロジーの裏側にある時代の流れと自社の立ち位置を見極め、「あいつに任せて、失敗するかもしれないけれど、最後は自分がすべての責任を取る」という度胸のある経営トップの登場が待たれる。

(取材・文/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)