事業承継にかならず存在する“組織承継”の問題

 この事態に国も危機感を抱き、税制改正で中小企業の事業承継対策を講じ始めた。

株式会社あしたのチーム 高橋恭介代表取締役社長
大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。2002年にプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わる。2008年に株式会社あしたのチームを設立、代表取締役社長に就任。「はたらく人のワクワクを創造し、あしたに向かって最高のチームをつくる」を企業理念として、1000社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用サービスを提供する実績を持つ。株式会社あしたのチーム 高橋恭介代表取締役社長 大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。2002年にプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わる。2008年に株式会社あしたのチームを設立、代表取締役社長に就任。「はたらく人のワクワクを創造し、あしたに向かって最高のチームをつくる」を企業理念として、1100社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用サービスを提供する実績を持つ。

 具体的には、相続税の負担軽減だ。現行では、株式の3分の2を対象に相続税額の8割まで納税を猶予しているが、改正後は全株を対象に100%猶予になる。後継者は事業を続ける限り、相続税の納税を先送りできるのである。これは2018年度からの10年間の特例であり、大廃業時代に歯止めをかけ、事業承継を促進する狙いがある。

 だが、このような税制改正で相続税対策はヘッジされるものの、後継者不足はなかなか解消できるものではない。そこで登場するのがM&Aによる事業承継である。

 創業家からすると会社を手放すというかたちになるが、100%子会社になることで事業は承継される。PMI(M&A後の統合プロセス)が上手くいけば、買い手も売り手も幸福になるが、ここで摩擦が起きると、さまざまなトラブルが発生する。

 これは、後継者がいる場合の事業承継でも同じことがいえる。親から子への事業承継だからといってスムーズに行くとは限らず、むしろ課題が噴出するケースが多いのだ。

 高橋社長はその理由を、「事業継続の実行においては、どの立場であっても“組織承継”の課題が存在するからです」と説明する。

なぜ息子を後継者にして失敗したのか?

 たとえば、組織承継のつまずき事例の代表格に、古参従業員による離反がある。ある会社のケースで説明しよう。

経営者A (70歳)は、従業員100名ほどの製造業を経営していた。急病で倒れて仕事ができなくなったため、入社5年目の息子B(33歳)を社長の地位に付かせ、事業を承継させることにした。

 しかしAを20年来下支えしてきた営業部長Cと息子Bのそりが合わず、徐々に経営方針に違いが生じるようになる。会社の方針は、息子Bが押し切る形で決定される場面が多く、一方の従業員の大半は、息子Bの若さや難しい性格からCを頼りにしていた。

 息子Bが社長に就任して2年目、息子BとCの対立が決定的となり、Cが会社を辞め、一部の優秀な従業員を引き連れて同業の会社を設立して独立した。同時に、重要な取引先も一部Cに流れたため、会社の売上げは大きく落ち込んでしまった……。

「よくあるパターンなのですが、この場合、適切な組織承継が行われていれば、従業員はC個人につくのではなく、会社についたはずです。また後継者を支えた経営幹部も離反することはなかった」と、高橋社長は指摘する。

エンゲージメントを高めて「組織継承」を成功させる

 あしたのチームでは、事業承継には「資産の継承」と「経営資源の承継」と「組織承継」の3大要素があり、その中でも最も重要で難しいのが「組織承継」だと考える。

 組織承継とは、一言でいえば“ヒトの承継”であり、人事評価制度を通じて、予め人材育成と事業・会社に対するエンゲージメント向上を実現しておくことなのだ。

「組織の承継というのは、マネジメントパワーの承継と言い換えることもできます。マネジメントパワーとは、人事権や査定権、従業員の給料を決定する権限です。経営者Aさんは、自分の会社で自分の息子なのだから、資産や経営資源の承継と同じように、自分の権限は息子Bに移行できると簡単に考えるのですが、そこに大きな勘違いがあります。マネジメントパワーとは、Aさんから息子Bに移行するのではなく、それを明文化された仕組みや制度の中に落とし込まなければ、スムーズな承継は実現しないのです」

 とくに創業者は、ゼロから会社をつくりあげた実績があるため、ある種のカリスマ的求心力を持っている。そのため、自分の裁量で人事や給料を決めている場合が多い。

 高橋社長は、これを“テレパシーマネジメント”と呼ぶ。強烈な個性のもと“言わなくてもわかるだろう”という“あうんの呼吸”で経営を行っているのだ。

「いうならば、創業者のマネジメントは“この指とまれ”方式です。創業者はそのマネジメント方式で通用するのですが、事業を継ぐ2代目は、“この指”の先にあるものを、きちんと明文化し、“この指に止まりたい”と思わせなければなりません。そこで必要になるのが、まさに従業員のエンゲージメントを高める人事評価制度なのです」

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