“エンゲージメント指数”で企業価値を測る時代

  あしたのチームが考えるエンゲージメントとは、従業員の1人ひとりが、会社の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲のことである。

 エンゲージメントは従業員満足度とは違い、一方的に社員へ迎合するものではなく、会社のベクトルと社員の目線を合わせ、あくまでも自発的な貢献意欲(エンゲージメント)として引き出されるものだ。そのエンゲージメントを持続させるためには、しっかりとした制度に乗せて運用していくことが必須であり、そのためには、企業の方向性に対する理解を促進し、帰属意識を高め、行動意欲を高める、適切な人事評価制度が必要になる。

「事業承継が行われるとき、適切な人事評価制度によって、事業や会社に対するエンゲージメント向上が実現されていれば、経営者が交代しても社員が離反することはありません。それが組織承継の本質であり、優秀な古参の従業員が離反してしまうのは、ある日突然、“とまるべき指”がなくなってしまうからなのです」

 M&Aにおける事業承継においても、エンゲージメントは大切な要素になる。一般にM&Aの世界では、買い手企業が売り手の企業に対して「1年間は人事制度をいじりません」等の契約を結ぶ商慣習がある。退職金や賞与、インセンティブなども基本的に変更を認めない。買収された側の社員が、不利益変更を怖れるからだ。

 ところが今、この慣習がM&Aの弊害になっているという。M&Aとは、通常エンゲージメントが高い会社がエンゲージメントの低い会社を買収するという構図になるのだが、その結果、魅力的な人事評価制度を持っている会社が、買収した会社の脆弱な人事評価制度を、一定期間維持しなければならないという矛盾が生じてしまうのだ。

 こうした商慣習が残ったままだと、健全なM&Aは成立しない。また買収される側の企業の価値も不当に下がってしまう。

 そのため高橋社長は、「今後M&Aの世界では、買収する企業の価値を測る“エンゲージメント指数”というパラメータが入って来る可能性があります」と推測する。

 たとえば、従業員や組織のエンゲージメントを可視化する、アメリカのギャラップ社が考案した「Q12」という12の質問があり、これを実施すると簡易にその企業のエンゲージメントを数値化できる。いずれM&Aによる事業承継においても、エンゲージメント向上が必要になることが予想されているのである。

賃上げできない企業は生き残れない

 いま、圧倒的な売り手市場の中で、勝ち組と負け組の2極化が進んでいる。エンゲージメント向上を施策として実行している企業は、雇用を強烈に吸収して勝ち組となり、そうでない企業は、人手不足という“台風”に根こそぎ吹き飛ばされてしまうのだ。

「人件費をコストと捉える時代は終わり、いま人件費は未来の利益を生む重要な投資となっています。優秀な人を採用できるのは“ありがたい”ことで、“雇ってやる”ではなく“雇わせていただく”という時代です。逆にいうと、人への投資ができない会社は、事業承継のタイミングで、廃業への道を突き進むしかないのです」

 厚生労働省は2018年度、生産性向上のため設備投資をする会社に対して、利益を賃上げに回すことを条件に、助成金を支払う方針を打ち出している。政府はまた18年度の税制改正で、賃上げした企業に対する法人税の優遇措置を盛り込んでいる。

 高橋社長は、こう締めくくる。「これらは、給与を上げられない会社は生き残れない、という政府のメッセージだと思います。さらに言えば、適正な人事評価制度を導入してエンゲージメントを向上させ、賃金を上げなければ、事業承継は成功しない。団塊経営者の大廃業時代を迎え、すでにそのような時代に突入していると実感しています」

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