実は極めて高いハードルである
「薄くて省エネ」での技術革新

ダイキン工業
谷内邦治
空調営業事業本部
事業戦略室 住宅事業担当課長

「risoraのコンセプトは理解できるとしても、技術的にとんでもなくハードルが高いものでした」と、同機種の開発を担った谷内邦治・空調営業本部事業戦略室住宅用事業担当課長は語る。

 そもそも省エネ性能を維持しながら薄くするには、従来にはない室内機の構造を一から創り上げなくてはならない。従来のファンをそのまま搭載すると、ファンと熱交換器の距離が十分に確保されないために室内機の内部で気流が乱れ(風の通路が遮断され)、耳障りな風切り音が発生してしまう。そうかといって、ファンの径を小さくすると送風性能が落ちる。

 このジレンマに対して開発者たちは、ファンの連結数を従来の11連結から20連結に増やすと共に、ファンの羽にのこぎりの刃のような切り込みを入れることで空気抵抗を減らし、吹き出し時の空気の剥離を低減して風切り音をよくすることに成功した(多連結ソウエッジクロスファンという)。

写真手前がrisoraのために開発された20連結のファン、奥が従来の11連結のファン

 また本体を薄くすると、気流を制御するフラップ(エアコンの下側で開閉する翼)には高い断熱性能が必要になる。

「フラップの樹脂の肉厚を0.5㎜まで薄くして断熱材をサンドする構造にしたり、航空機の翼に使われる空気の剥離を防ぐスリット技術をエアコンのフラップとしては初めて採用しています。どちらも特許を出願しています」(谷内課長

 こうした主要部品以外でもモーターやギア、開閉アームなど細かな部分で新しい機構やレイアウトが採用された。

 「本当にエアコンをゼロから考え直した開発でした」(谷内課長

グローバル戦略も変える
プラットフォーム機に

 risoraは、ダイキンならではの冷房時の「天井気流」と暖房時の「垂直気流」で風を感じにくくするように設計されている。また最上位機種「うるさら7」に搭載されている「人・床センター」が採用され、暖房時の室内の温度ムラを解消する機能や、設定温度に到達後も温度だけでなく湿度も制御し続ける機能などが盛り込まれた。

「やはり冷気が降りてくるように涼しくなり、床暖房のように温かくなる空調方式がいちばん快適だろうと思います。風が直接当たると、寒さや乾燥を感じることになり、むしろ不快さにつながります。risoraは、上位機の機能を取り込んでおり、消費者が求める快適さと健康ニーズに対して、ダイキンならではの性能と選択肢を用意できたと思います」(田本部長)

 同時にrisoraは、ダイキンのグローバル戦略のプラットフォームになる機種でもある。先にも紹介したように国内出荷のエアコンは、省エネ性能では海外では断トツのものだ。だからこそ従来は、「日本の普及機クラスで十分」とされてきた。

デザインにこだわったrisoraはすでに「2017年度グッドデザイン賞(住宅設備機器部門)」を受賞

 しかしrisoraの薄さやインテリアに応じたデザイン性は、空間づくりにこだわりが強い欧米の消費者に新たな選択肢を提供するのである。

「2018年中には海外に出したいと考えています。国ごとに必要とされる機能を微調整する必要がありますが、risoraが日本発のグローバル向けのプラットフォーム機種であることは、グローバル戦略を一歩押し出す力を備えているとも言えます」(舩田本部長)

 エアコンは、一度購入すると壊れるまで関心が持たれない製品だ。しかしrisoraでエアコンはまったく新しいステージに入った。ちょっと壁を見て考えてみてもよいのではないか。

risoraの詳細はこちら:http://www.daikinaircon.com/risora/index.html