日本版CCRCは
民公産学の“四方一両得”のメリットを持つ
松田氏によれば、日本版CCRCは、民公産学の“四方一両得”のメリットを持つ。
まず居住者となる「市民」は、予防医療や健康支援を受けながら、介護やみとりまで継続的なケアが提供されることで、安心しながら地域の“担い手”として積極的に自治に参加することができる。また周辺の市民にも在宅型のデイサービスがあれば、地域包括ケアの拠点となる恩恵を受けられる。
二つ目は「公共」へのメリット。日本版CCRCは地域に雇用を創出するため、若者層の転出を抑制し、同時に事業主体からの税収が増える。交流人口が増えれば消費も増え、移住者が住民票を移せば社会保険料の収入が見込まれ、自治体の財政は健全化する。
三つ目は「産業」への効果。CCRCには、米国がそうであるように「介護でもうけるのではなく、介護にさせないことでもうける」という逆転の発想があり、そこに新ビジネスが創造される余地が広がる。例えば、健康増進プログラムや、予防医療のための健康のビッグデータ解析、シニア向けの生涯学習講座、資産運用やリバースモーゲージなどの金融ビジネス等々、単なる高齢者住宅を超えた組合せ型の新産業になる。
そして四つ目が「学校」だ。日本では約800の大学があるが、少子化の進展で経営の危機にある大学も多い。シニア世代に門戸を開き、彼らが再び大学で学び、学生に社会経験を教える場を設ければ、大学が活性化し、地域の多世代交流の拠点となる可能性が生まれる。
日本版CCRC=地方への移住ではなく、
あらゆる立地で成立する。
日本版CCRC=地方への移住、と考えられがちだが、基本的に「生涯活躍のまち」は、都市・近郊・地方とあらゆる立地で成立する。必要となるのは、施設や設備などの「ハード」と、コミュニティーの運営や健康や介護のプログラムといった「ソフト」、そしてそれらを支える制度設計や金融などの「仕組み」である。日本版CCRCでは、米国のように塀で囲われたコミュニティーではなく、より地域に開かれたコミュニティーであり、居住者は高齢者だけでなく多世代、また建物は、既存の公共施設や移転キャンパスなどストックを活用すれば初期投資が安価に抑えられる。
「日本版CCRCの本質は、“カラダ・オカネ・ココロの安心”にあると考えています。そこで重要になるのは“ワクワク感”。年賀状を出すとき、『東京の介護問題が不安なので、◯◯県のサービス付高齢者住宅“◯◯苑”に引っ越しました』と書くより、『このたび、“高知龍馬ビレッジ”に移住しました。好きな幕末の歴史を地元の大学で学びながら、高知の特産品の販路開拓のアドバイザーをしています』の方が望ましい。日本版CCRCは“年賀状に書きたくなる”セカンドライフの創出であるべきだと考えています」(松田氏)
産学連携で地方創生へ拍車
大きなシナジーを期待
そして今、産学連携を通して地方創生に貢献しようする大学が増えている。新しい産学連携のモデルを打ち立てるべく、国内外の産業界や各種団体とのネットワークの強化を図り、セミナーなどを通じて積極的に情報発信に取り組む大学もある。
大学通信の安田賢治取締役は、地方創生の中で大学が担う役割についてこう語る。
「例えば観光や特産品の販売、まちの話題づくりには、大学の観光学やマーケティング、経営の研究が活用できます。インバウンドを呼び込むには語学が必要になり、その地域にちなんだ公開講座の開講なども、地方創生に役立つと思います。すでに今は、大都市の大学の多くが地方自治体と協定を結び、大学がUターン就職を支援する動きも盛んになっています。地方創生に貢献する大学は、教育や研究、地域貢献という面で、大きなシナジーを生み出す可能性があるといえるでしょう」