デジタル時代に求められる
CFOの役割とは?

 デジタルファイナンスを語る上でERPは欠かせないが、ERPに格納された多種多様なデータは、保持しているだけでは価値を生まない。自在にデータを活用するためには、ビジネス基盤の質が問われる。

次世代ERPやAIなど新技術を活用し、「デジタルファイナンス」で優位性を築くSAPジャパン
SAP S/4HANA Cloud事業本部
本部長
植木貴三氏

 ここで大きな役割を担うのが、次世代ERP「SAP S/4HANA」である。SAPはクラウドとオンプレミスという両方の環境に対応している。「次世代のビジネスプロセスを実現し、インテリジェンスを実装したERP。それがSAP S/4HANAなのです」とSAPジャパンの植木貴三氏は語る。

 特にグローバル企業に対して、植木氏が提案するのが「2-Tier ERP」。本社のSAP S/4HANAには独自プロセスに対応する最小限のカスタマイズを実施する一方、グループ企業ではクラウドサービスを活用するというアプローチだ。

「2-Tier ERPにより、グループ企業は一定の自由度を保つことができます。本社側のSAP S/4HANAとの連携により、現地法人などのガバナンスを確保することもできる。自由度とガナバンスの両立が可能です」と植木氏は強調した。

 最後のゲスト特別講演では、資生堂CFOの直川紀夫氏が、新しい時代のCFOの役割について語った。

次世代ERPやAIなど新技術を活用し、「デジタルファイナンス」で優位性を築く資生堂
執行役員常務
最高財務責任者 CFO
直川紀夫氏

「デジタルの進化によって生活が加速度的に変化している中、私たちがそのことを見逃してしまうと、ビジネスに大きな影響を与えてしまいます」と直川氏。さらに、企業として成長を目指すのであれば、成長性が見込める海外展開の強化を考えるのは必然であるとして、「デジタル化、グローバル化といった新しいことを取り入れるに当たっては、チャレンジをしようという『組織カルチャーの変革』、適所適材を実現する『人事制度改革』、そして自前主義から脱却する『ファイナンスの意識改革』が必要です」と続けた。

 特にデジタル化への対応では、ベンチャー企業の力を取り込み、自社のリソースと融合して、競争力のある新たな価値を創出することが求められる。その検討と投資判断には、デジタルネーティブである若い世代の力を生かしていくことが必要で、CFOがブレーキをかけすぎることは禁物だと直川氏は指摘する。

「バリュエーションは必要ですが、そのことに時間をかけていると、優れたベンチャーは資金力のある外資系の競合他社が、あっという間に持っていってしまいます。ファイナンス視点でROIの検討はしますが、ある程度有望だと判断すれば、覚悟をもって迅速に決断することが大事ですし、またこうしたリスクテイクをするためにも、コアとなる既存ビジネスの安定は欠かせません」

 攻めと守りのバランスを取り、CFOとしてビジネスを掌握しながら、迅速に判断することで、経営戦略を牽引することが重要だと直川氏は語り、講演を締めくくった。