バリューチェーンの視点から
個々の活動を判断していく

――組織としての課題はどんなところにあるとお考えでしょうか。

松尾 その人にどんな能力を発揮してもらうかを明確にすると同時に、会社としての価値を生み出すバリューチェーン全体を意識して、その中でどんな役割を担うのかを個人個人が考えていくべきです。

 もともと日本というのは、ある程度長く続いた業務は“伝統芸能化”しやすい傾向にあります。相撲はお互いが蹲踞(そんきょ)して見合うところから始まりますが、なぜそうするのかといった“そもそも論”には触れません。

 それを打破して、バリューチェーン全体の視点から個々の業務の経済合理性を明らかにする必要があると思います。

“思い込み”による組織運営から脱却しデータに基づいた合理的な経営を

――しかし、日本の企業も変わりつつあるのではないでしょうか。最近では社員の副業を奨励する“副業の禁止の禁止”と言った、これまでには考えられなかったことが言われるようになっています。

松尾 副業禁止の禁止は確かに意味があることだと思います。優秀な人材を社会全体で活用していく上でもこうした発想は必要です。ただ、さまざまな問題が出てくると思います。

 例えば、副業することで、本業に割く時間資源が減るという問題が起こるかもしれません。しわ寄せされたと考える本業側の人は腹を立てることもあるでしょう。業務の目的や達成指標が明確化されていない状態では、本業の貢献度を正しく評価することができないかもしれません。

 一方で、副業することはプロフェッショナリズムを根付かせるという面でも大きな意味があります。副業しても簡単にお金を稼ぐことはできません。大きな組織の強みを実感することもできるでしょうし、そこでの自分の役割や期待される価値もわかってきます。それが企業としてのバリューチェーンを意識することにもつながります。

データとして分析すると
人脈が企業の武器になる

――一人ひとりがプロフェッショナルとして活動するようになると、さらにその人についてのデータが豊富に収集できるようになりますね。

松尾 その一つが“人脈”というデータです。私は昔から人脈というものに関心がありました。2001年ごろにインターネットの情報から人のネットワークを解明するという論文に触発されて、人物検索のWebサイト「あのひと検索SPYSEE(スパイシー)」の開発に加わったりもしました。