豊富な人材と生産背景の最適化によって
注文服へのニーズの高まりに対応

 07〜08年頃を転機に、オーダースーツ業界は好調の一途をたどっている。麻布テーラーなどの功績によって、若い層にとってもオーダースーツがメジャーになってきているのがその要因とされるが、そこには「価格と納期、そして体型の問題が大きく影響している」と関口猛・オンワードパーソナルスタイル代表取締役社長は語る。カジュアルな洋服とは違い、スーツの場合、既製服を購入すると袖や裾の丈をお直しする必要があり、その修理期間を考えると、比較的短時間かつ低価格で自身の体型にぴったりと合ったスーツが届くのであれば、オーダーした方が理にかなっている、との認知が若者の間で広がったのだ。

オーダースーツの敷居を下げカスタマーのニーズに応える新しいシステムを構築(1)展開する生地は、ポリエステル混紡のウールが3万円、ウール100%が4万円、インポート生地は5万円(全て税抜き価格)、それ以外にエクスクルーシブな生地も展開する。(2)本格的なオーダースーツの仕様とされる袖ボタンが開閉できる本切羽仕立て。せっかくオーダーするのであれば、ぜひこの仕立てで。(3)ベントと呼ばれるジャケット裾のスリットは、センターやサイドといった配置位置から有り無しまで選択が可能。(4)手縫いのような温かみのある風合いのAMFと呼ばれるステッチを選べば、高級感はより一層高まる。

 そんな市場のニーズを組んで、「KASHIYAMA the Smart Tailor」ブランドをスタートさせる。しかも通常は約3週間でも早めだとされる納期を、最短で1週間に短縮。これによって、さらに既製服のお直し期間に納期を近づけた。もちろん、スーツの製造工程はこれまで同グループが展開してきたものと同様の手順で、一切クオリティを下げることなく中国は大連の自社工場で行われる。

 それなのに手元に届くまでの期間を短縮できたのは、D2Cのビジネスモデルを最適に効率化しているからに他ならない。採寸表に記載されたデータを工場内でCAD化。生産と小売りが異なる場合は通常3回は行う検品作業も、自社工場を使用しているため一度で全てが完結する。それをパックランナーと呼ばれる真空パックのようなパッキング技術によって梱包し、工場から直接注文主に送り届けることで、約1週間という驚きの納期を実現させた。

 フィッティングも店舗はもちろん、出張採寸も行うことで、より個々人のライフスタイルに合った形でできるようにすることできるようになった点も見逃せない。さらに約8割を数える年間300件の採寸を行うというキャリア20年以上のフィッターたちは、立った状態、座った状態、どちらの姿勢で仕事をすることが多いのか。また全体のスタイルやディテールはどのようなものがグローバルスタンダードなのかを判断した上で、好みのスーツに導いてくれる。長年高品質のオーダースーツを提案してきたことによって育まれた豊富な人材によるサービスも、オーダーの敷居を下げるのに一役買っているというわけだ。

 納期も同業他社に比べて短いうえに、高品質で低価格。しかも自分の体型や好みに合うグローバルスタンダードのスーツが簡単に注文できるとなれば、オーダースーツに比較的抵抗のない50代以上の層だけでなく、20〜30代にとっても魅力的に映ることは間違いない。事実、「KASHIYAMA the Smart Tailor」をスタートさせる以前は、同社のオーダースーツの顧客のコアな層は50代だったのに対し、ブランドスタート以降は、20〜40代の層が増えつつあるという。

「今年の3月の店舗予約は、大学の入学式用に10代の顧客でいっぱいでした」という関口社長の言葉からもわかるように、オーダースーツ業界に一石を投じた「KASHIYAMA the Smart Tailor」のサービスは、注文服慣れした既存の50代のみならず、確実に若年層にもリーチしつつあるようだ。