データサイエンティストの不足
要因の1つは大学教育にあり
データサイエンス学部の取り組みは、産業社会が抱えるデータサイエンティスト不足の課題に少なからず貢献するものと期待している。しかしながら、2018年4月に新設されたばかりの新学部だ。第一期生65人が社会に巣立つまでには4年かかる。来年度以降、毎年60人程度の学生を受け入れていったとしても、本学ができることには限界がある。社会人教育にもリソースが割ければいいのだが、現状は難しい。
デジタル人材、データサイエンティストの裾野拡大に向けては、人材育成を必要とする企業などで、セミナー・研修を行うことができるような人材を増やしていくことが必要だ。データサイエンティスト協会では、データサイエンティストのスキルセットの1つである「データサイエンス力」を「見習いレベル」から「独り立ちレベル」へと引き上げる養成講座を開いているが、社会全体としては、より上位レベルのデータサイエンティストを育成することが重要だろう。並行して、オンライン講座などを通じた幅広い層に対する教育も必須となる。
統計学の専門家として、半世紀近くにわたり研究に携わり、日本統計学会の前会長も務めてきた。残念ながら現在、企業で活躍する現役世代には、統計学に対していいイメージを持つ人は少ないようだ。その理由は、統計学が学際的であり、文系出身者にとってはとっつきにくく、また理系出身者にとっては、社会とのかかわりが求められることから、研究室にこもって取り組むことができない学問として敬遠されてきたように思う。
米国のハーバード大学では、すべての学部で1年次に統計学を学ぶ。カリフォルニア大学バークレー校でも、データサイエンスという基礎科目を設けて、文系・理系関係なく、すべての学生に学ばせている。共通的な教養としての地位が確立されているというわけだ。一方、日本では学部学生は学ぶが、それ以外の学生には授業が用意されていない。日本でデータサイエンティストが不足しているのは、大学教育にも一因がある。
加えて、欧米の大学は総じて利に聡い。ある特定の学問分野・領域が重要だと思うと、膨大な経営資源を投入し、学界、産業界から人材を集めてくる。その結果、過去5年くらいの間に、データサイエンスの修士課程が多くの大学で立ち上がっている。構造的な問題もあり、日本の大学がこれを真似することは難しいが、スピード感の違いは認識すべきだ。統計学はもともと英国、米国が強く、韓国や中国にも広がり、最近はデータサイエンスと名前を変えて進化している。これ以上、日本が後れを取ることは許されないのである。
社会環境が加速度的に変化するなかで、企業は絶え間ない変革が問われている。これを担うのが、データ分析に基づいて客観的な意思決定を行うことのできるデジタル人材、データサイエンティストである。産業界のニーズに応えていくためにも、我々教員自身が気を引き締め、意欲的にチャレンジしていかないといけないと考えている。
実社会でデータを利活用する企業の人々ともつき合いがあるが、彼らの多くは、統計学やデータサイエンスについて、系統立てて勉強したことがないという。企業に入ってから、あれこれ言われ、断片的に情報収集したに過ぎず、できることなら系統的に学び直したいということだった。それを担うのはリカレント教育(社会人の学び直し)だと思うが、我々もこれを提供する責務は痛感しており、社会人を対象とした大学院の設立も検討しているところだ。