「個人→企業」に加えて、
「企業→個人」の支払いも
PayPalの新しいサービスを多くのEC事業者が歓迎しており、すでに導入を表明した企業もある。例えば、国内最大級のランニングポータルサイト「RUNNET」は、マラソン大会への参加料をPayPal銀行口座決済で支払えるようにする。また、ネット上で多様なイベントの運営側と参加者をつなぐサービスを展開する「Peatix」は、イベントチケットの決済手段の一つにPayPal銀行口座決済を加えた。
「ユーザーが希望する決済手段はさまざまです。事業者が提示する選択肢が少なければ、購入を諦めてしまうケースが生じることは避けられません。決済手段の多様化は買い手の増加、売上増に直結します。また、現金系の決済では未入金リスクを抑えるのは難しいのですが、PayPalの銀行口座を使用しての決済はこのリスクを排除することができます。こうした点が、多くのマーチャントから評価されています」と曽根氏は説明する。
冒頭で述べたように、日本における電子決済サービスは成長途上にある。現金決済が主流の環境に効率的な電子決済サービスを根付かせることで、PayPalは市場そのものの拡大を目指す考えだ。
「よく『ライバルは?』と聞かれますが、私たちはゼロサムゲームを考えているわけではありません。電子決済サービスを定着させ、多くの企業や個人に価値を届けるために有効であれば、同じようなサービスを提供する企業とも協業します。協業によって企業や個人の選択肢が増えれば、すべての関係者にメリットをもたらすはずです」
前述した企業から個人への支払い機能については、クラウドソーシングの成長に見られるように、近年は企業から個人への支払いが増えている背景がある。支払い先は初めての相手かもしれない。相手が数人程度なら銀行口座への支払いも可能だろうが、多数になればその手間は大きな負担になる。また、個人情報をセキュアに管理するためには、相応のシステム投資が必要だろう。PayPalの新サービスは、こうした課題の解消に役立つ。
「簡単な手続きで個人への支払いが可能になるほか、企業にとっては管理負荷の軽減にもつながります。企業が管理するのは相手先である個人のメールアドレスだけ。低コストで、多数の宛先に対して異なる金額を一括で支払うことができます」と曽根氏は語る。
さらにPayPalでは、中小企業・個人事業主向けに、URLで支払いを簡単に受け取れる「PayPal.me」というサービスも開始した。ソーシャルメディア上で商取引の決済・請求を簡単にするサービスで、自分のリンクを作成し、電子メール、SMSのほか、インスタグラムやFacebookなどのSNSでシェアすることで、受け取った相手は、モバイルに最適化された画面から簡単に支払うことができる。
PayPalは今後ともサービスを進化させ、日本における電子決済サービスの成長をリードする考えだ。それは企業や個人の利便性を高めるとともに、決済に関わるさまざまな非効率の最小化にもつながる。現金の流通や管理に要するコストの削減という意味では、社会的な意義も大きいといえそうだ。