新卒一括採用には、ミスマッチの多発以外にも多くのデメリットが指摘されている。近年、学生に人気の就職先として上位を占めるのが、外資系企業やメガベンチャーだ。そうした企業は経団連に参加していないため、春の一括採用が始まる前に動き出す。結果として、日系企業は優秀層の学生を採用しづらくなっている。一方で、表向きにはルールを順守しながら、解禁前に「インターン」の名目で会社説明会を行う企業も少なくなく、すでにルールは形骸化しているのが実情だ。
また、2017年6月、経済同友会が発表した報告書「生産性革新に向けた日本型雇用慣行の改革へのチャレンジ」では、一括採用によって均質なマインドセットを行うことが画一的な人材育成を助長し、イノベーション創出を阻害している可能性があると指摘された。急速な技術革新を背景に、あらゆる企業が事業領域の拡大・転換を迫られている。求められるのは、ゼネラリストよりも尖った専門技術を持った人材である。テクノロジーを駆使してイノベーションを起こすポテンシャルを持った人材が重宝される。グローバル市場で競争優位に立つためにも、優秀な人材の獲得は企業の至上命題だ。能力のある者を好待遇で迎える人材獲得競争は世界的に激化している。海外の優秀な学生をいかに獲得するかは、今後ますます人口が減少する日本にとっても避けて通れない課題だ。通年採用が一般的な世界の基準からみれば、春の一括採用を主流とする日本の事情は独特。「改めるべきだ」との声は、数年前より経済界から上がっていた。
一方で、一括採用には採用合理化・効率化という点で企業と学生双方にメリットがあるとする見方も根強い。ルール廃止によって現在以上に就活が早期化・長期化すれば、学生が学業に専念する時間を確保できなくなるのではないかといった懸念もある。
採用コンサルタントの谷出正直氏は、「学生を一定規模で採用し、ゼネラリストとして育成するための一括採用は一定程度残るだろう」とみたうえで、「ルール廃止は、キャリア教育の見直しとセットで議論すべき」と指摘する。
「ルールが完全に廃止されて通年採用が主流になれば、優秀な学生は企業からの熱烈なアプローチを受けて引く手あまたとなる反面、声がかからない学生も増え、就活格差が鮮明になる可能性があります。また、通年採用は欧米の主流と言いますが、日本は欧米のように職業教育が徹底されていません。十分な職業教育を行わないまま、大学生のある時点からいきなり就活をしろとなっても、なかなか難しい。ルールを廃止するなら、大学進学前、もっと言えば、小学生の頃から、自分が将来どんな職業に就くかを考えながら日々の学習に向かえるよう、キャリア教育のあり方を根本から見直す必要があるでしょう」
現状、移行措置として、21年卒までは現行ルールを維持すると決定されているが、中長期的にみれば、新卒一括採用が時代に適応しきれなくなっていくのは明らかだろう。国の成長戦略を議論する未来投資会議では、大学の教育改革を含めて新卒一括採用を見直す方向で議論を開始している。いま、まさに日本の就活の在り方が大きく変わろうとしている。学生はどのように向き合うべきか。親はどんな視点を持つべきか。さまざまな声やデータを交え、就活新時代の羅針盤を示していこう。
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