東京都墨田区の錦糸町に日本における「延長保証」のスタンダードを築き上げた草分け的企業がある。テックマークジャパン株式会社は、1930年頃に米国で始まったワランティサービスの種を、日本の市場に合うようカスタマイズし芽吹かせた。現在、延長保証は家電量販店だけでなく、自動車や住宅設備機器、AIスピーカーなど、その活用の幅はとどまることを知らない。日本国内での普及の契機となった「マーケティング手法」への発想転換の立役者で、延長保証の活用法と可能性をまとめた日本初の書籍の著者でもある同社代表に話を聞いた。(ライター:関口裕美、撮影:小堺正紀)

 

海外のスタンダードが、
日本に根づくとは限らない

 保証の分野に関して言えば、日本は後進国です。多くの金融商品は欧米が先行していましたから、延長保証というサービスも元はアメリカから始まったものでした。私は1990年代にアメリカで暮らしていたのですが、買い物をする度に当然のごとく「延長保証をつけますよね」と勧められたのには正直戸惑いました。購入した商品へのリスクヘッジという概念は、当時の日本には無かった考えだったのです。

 1990年代と言えば、日本国内でも大手電機メーカーや自動車メーカーの競争がますます激しくなり、新商品が次々に投入されていた時代です。消費者の国産製品に対する消費意欲や愛着も高まっていたので、こうした延長保証サービスもいずれ必要とされるだろうと私は予想していました。

 しかしながら、サービスの滑り出しは困難を極めました。数社の販売店やメーカーから引き合いをもらっていたにも関わらず、地域の電器屋さんとの結びつきが強いなどの文化的な背景の違いに加えて、“日本の製品は世界一高品質で壊れない”という「製品神話」の影響もあり、延長保証のためにお金を払うという考えが受け入れられなかったのです。浸透のきっかけとなった家電量販店などの「ポイント制度」が登場するまでは、加入者数は思うようには伸びませんでした。

“顧客満足度の向上”から、
“製品の改善提案”まで

 私がまず取り組んだのは、延長保証を単なる保証としてではなく、マーケティングの手法として確立することでした。もとよりアメリカで延長保証が急激に展開したのも、レストランのウェイトレスなど、販売手数料がそのまま販売員や店舗に入る「チップ文化」があってこそです。海外のやりかたを、そのまま日本に持ってきても通用するとは限りません。一方で、日本にはおもてなし文化を始めとした、顧客満足度に対する関心の高さがあります。そこで当社では、顧客ロイヤルティとブランド価値を高めるためのサービスとして延長保証を位置づけ、導入を提案していきました。

図1 ホーミング(帰巣)モデルの一例
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 当社では社員一人一人を、マーケティングに精通したコンサルタントとして教育しています。また、現場の販売員の方々にも製品のエンドユーザーに対し、メリットをしっかり説明していただけるよう、講習やトレーニングなどに出向くこともあります。他にも店内の装飾や効果的なちらしの作り方など、クライアント企業と二人三脚で進めていきます。

 製品を取扱説明書に従って正しく使用していても、不意に製品が故障してしまうことがあります。延長保証を活用することで、「追加費用なく直せる」ので安心して製品を使い続けることができることから、顧客満足度は上がります。その結果、買い替え時は同じブランドにお客様が戻ってこられます(図1参照)。クライアント企業はお客様の情報に加えて、「いつ買ったものがどのような原因で壊れたか」というデータまで把握できるようになります。私たちは蓄積された製品の修理データを分析しながら、製品の改善提案まで行なうこともあります。