失敗で終わらせないために最後まで「やり切る」

近藤 多くの企業がデジタル人材の不足を課題に挙げています。デジタル人材の採用とトレーニングを強化する企業も増えていますが、お二人の話を伺っていると、トライアル&エラーを許容する企業文化や経営者のマインドセットが大事だと改めて感じました。

 失敗をいかに受け入れるか、チャレンジのプロセスをどう評価するかは多くの企業が苦手とするところです。

加藤 当社でも仮説検証を高速に回すうえで当然、失敗もたくさんあります。スタートアップは失敗覚悟でチャレンジしなければ、あと数年でキャッシュがなくなる環境に立たされていることがほとんどなので、とにかく打席に立つ機会を増やしていますし、それを称賛するカルチャーが必要だと考えています。

 当社の今年のスローガンは、「やりきる」です。失敗を失敗で終わらせないよう、最後まで粘るということを大切にしたいと思っています。たとえ計画通りの成果を上げられなかったとしても、何らかの学びがあれば次につなげられますし、100%の失敗はありません。

佐久間 現場の立場から言うと、デジタル人材をどれだけ集めたとしても、みんなの力を活かして何をしたいのかを、リーダーが事業計画やビジョンなどに落とし込み、表現できないと、プロジェクトは前に進みません。

 私はAI活用プロジェクトの現場に関わることも多いのですが、テクノロジーとリベラルアーツ、ビジネススキル、マネジメントスキルは不可分だと思うことがよくあります。

 特に大企業においては既存の事業を維持しながら、新しい事業を創出していく必要があります。まさに『両利きの経営』*で説かれているような、知の「深化」と「探索」を両立できる人材が切望されていると思います。

*チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著/入山章栄監訳/冨山和彦解説(東洋経済新報社)

信國 最近では、デジタル人材を語るとき、テクノロジーに加えてビジネススキルやドメイン知識を持ち、みずからビジョンを描いて、プロジェクトメンバーをリードしていける能力が重視されるようになってきました。

 単に工学系の大学院から機械学習を学んだ学生を大量に採用しても、そういった人材を活かす文化や枠組みがないとデジタルトランスフォーメーションは実現できないということですよね。

佐久間 その通りです。デジタル人材を活用して何をしたいのか、どんな価値を生み出したいのか。それが整理されないまま、高い給料を払って優秀な人材を集めたとしても、新しいチャレンジができないとわかった時点で去ってしまうでしょう。

信國 最後に、日本経済のさらなる発展に向けて、日本の大企業、特にCFOの皆さんに向けて提言がありましたらお願いします。

佐久間 人に投資することを重視していただきたいですね。それは採用や教育にお金をかけるということだけではなく、挑戦の機会を与え、プロセスを評価し、どこに成功を見出すのか。そういう全体像をデザインしながら人に投資してほしいと思います。

加藤 日本は人口減少社会にあり、このまま変わらずに同じ船に乗っていては沈没してしまうという危機感が、私たちの世代にはあります。そうならないために私たち自身、力を尽くしたいと心から思っていますし、変革事例を皆さんと一緒につくっていきたい。そのために、日本が世界に誇るアセットである大企業の力を、ぜひ貸していただきたいと願っています。

●問い合わせ先
デロイト トーマツ CFOプログラム
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