「パリ協定」の実現とともに、
2050年が大きな目標になる

“脱炭素”社会の未来は、企業こそが鍵をにぎる。経済学者・東京大学名誉教授
伊藤 元重中央環境審議会地球環境部会および長期低炭素ビジョン小委員会のメンバーを務める。

渡辺 最近、地球規模での気候の異常を実感なさる方も多いかと思いますが、その対策として「パリ協定」が結ばれ、日本は2030年度に2013年度比26%のCO2削減を目標としました。実現できるでしょうか。

伊藤 非常に難しい問題で、とにかく長い時間がかかる。特に今は2050年の時点でどうなっているのか、今から何をすべきかを考えなければなりません。

渡辺 なぜ2050年なのでしょう。

伊藤 200年くらい前の産業革命の時点から比べて、2050年までに2度以上平均気温が上がると、かなり深刻な状況になりそうだとさまざまな研究データが示しています。例えばいろんな災害が起こり、生態系が壊れる。その長い時間軸の中で、同時に足元の問題をどう解決するか。もう少し目先のところで積み上げることも重要なのです。

渡辺 子供や孫の代までですね。

伊藤 方法論もたくさんある。だからビジョンを持つことは重要です。

“脱炭素”社会の未来は、企業こそが鍵をにぎる。

市場的手法が気候変動に
対する大きなピジョンになる

渡辺 先生のお考えになるビジョンとはどういうものですか。

伊藤 一つは国が主導権を握り、目標を達成するための「規制」をする手法です。国民にもわかりやすく、国民の暮らしや産業界にも影響力や効果が大きい。それから、いわゆるエンジニアリング的な手法。経済産業省や経団連などが指標を作り、企業間で合意して実施するものです。しかしこの2つだけで、厳しい目標を達成できるかは不安です。

渡辺 なるほど。他に考えられることはありますか。

伊藤 期待できるのは市場的手法です。例えばESG(環境・社会・ガバナンス)投資、あるいは再生可能エネルギー100%で生産するとその企業の評価が上がるシステムなど、環境を考えている企業に資金が流れるようなイニシアチブに参画することが大切です。

渡辺 世の中の人々の賛同を得られ、経済も潤うわけですね。

伊藤 市場的手法は、大きなビジョンになると思いますよ。