多様な働き方やキャリアの選択肢が広がりを見せるなか、人材を企業の資産として維持・形成し、組織の競争力に変えていくためにいま企業人事に求められるものは何か。神戸大学大学院経営学研究科伊達洋駆氏と、人材開発や社員研修を行うキャリアアセットマネジの作馬誠大氏は、組織に貢献する人材力について産学連携で調査・研究を進めている。この企画では彼らの視点を通して、企業の人事が人材の資源化にどう関与すべきかという点について全5回で考察を進める。

企業の採用現場では、現状をどのように捉えているのか。伊達氏と作馬氏が複数の企業の人事担当者に取材を行った結果、2つの重要な視点が得られたと言う。ひとつは人材を送り込む側の大学と、受け入れて育てる側の企業の目指すところに、大きなギャップが存在していること。もうひとつは、今後ますます予測不可能となってくるビジネス環境に備えた“戦略的な”人材マネジメントの必要性である。

就職予備校化する大学と
“白紙の学生”を求める企業

伊達洋駆 だて・ようく
神戸大学大学院経営学研究科。専攻は組織論。産学連携をコーディネートするリエゾン組織、株式会社ビジネスリサーチラボを設立し、キャリアアセットマネジ株式会社とは雇用され得る力(エンプロイアビリティ)の実証を伴う研究開発を進めている

神戸大学大学院伊達氏(以下、伊達) 大学においては、就職活動に対する学生の姿勢に驚かされます。英語やプレゼン能力はもちろんのこと、自己分析、業界研究、ありとあらゆるもので“武装している”というか。「自分にはこういった仕事が向いています。」とか、「自分は即戦力になります。」と断言する学生もいます。大学側も、そんな学生を後押ししている側面があるように見える。

キャリアアセットマネジ 作馬氏(以下、作馬) でも、実際に企業の人事部を訪ねてみると、そもそも新卒社員に即戦力などは求めていない、むしろ、「白紙で来てほしい」と思っているようでしたね。入社後は出来るだけゼロベースにして、会社のやり方を一から学んで欲しいと。

伊達 企業が学生に白紙になることを求めているということは、大学と企業は“非連続”であって欲しいわけです。一方、学生や大学側は、身に付けた知識やスキル、経験をどれだけ示せるかということばかり考えている。つまり、“連続性”のアピールです。このギャップは非常に大きいと思います。

作馬 学生に本当の意味で即戦力を求めていないというのは事実でしょうね。きちんと話すことができて、身なりを含めてしっかりしていれば、それでいいというのが本音ではないでしょうか。

伊達 勉強や受験は、努力すれば報われる“確実な世界”。しかし実際の社会はまったく違う。完璧と思っても評価されないことはあるし、理不尽なことで怒られたりもします。スキル云々よりも、学生のうちから、そういう“不確実な世界”に身を置いて学んで欲しいという要求は、取材の中でも出ていましたね。

 ただ、滑稽なのは、大学側がそういった社会の不確実性を授業で教えようとすることです。ビジネスは、疑似体験などでは決して解らない。逆に安易な成功体験を生んでしまうこともある。企業にしてみたら、何をやっているのかと冷ややかな目で見てしまうのも無理はないと思います。