現場の直感をデータ化する
伊達 もう一つ、人事の方の話を聞いて強く感じたのは、現場の直感が非常に重視されるということです。採用において「一緒に働きたいと思った」という現場の声を、絶対的な基準のように捉えている企業が多かった。人材を資源化し、経営に活かすという私の研究領域から見ると、少し危機感を持ちました。今後、人事が経営層から変化や変革を具体的に求められることは増える。その時に、人材の説明責任はどこにあるのだろうと思わざるを得ません。
作馬 おそらく、現場がうまく回っているので、そこをあえて言語化したり、共有する必要性を感じていないのかもしれませんね。人の行動と成功の因果関係をデータ化することは可能です。それを採用の評価基準に反映すれば、入社後により高い角度でパフォーマンスを出す人材を見極める材料となるし、その後の人材育成にも役立つと思うのですが。
人材マネジメントで、
戦略的な人事へ
キャリアアセットマネジ株式会社 企画運営室 主任研究員。人間の行動メカニズムに基づく組織行動と人的資源の整合性、OJTを通した経験知の獲得と組織・個人の関係について研究を進めている。自らも人材戦略マネジメントのプロフェッショナルとして、多くの企業の採用・人材活用のプログラム開発に関わってきた。
これまでの人事に求められていたことは、経営と現場双方からの人材の要求に「応える」役割であり、組織を円滑に「回す」ための機能だった。そうした背景から、各所から情報や苦情が持ち込まれ、部署間で板挟みになることも珍しくない。しかし“競争力を高める”という課題をつきつけられた場合、組織内部へ向けられたこれまでの視点だけでは社員の資質をビジネス環境の変化に向けて最適化できないと伊達氏は指摘する。
伊達 直感的ではなく科学的な人材マネジメントを行うべきだと思います。そのためには、人材に関する情報を戦略的に収集、データベース化し、活かす。たとえば、こういう人材を採用したら5年後、10年後はこうなったというデータを収集、分析して、採用戦略を立てます。経営層は市場の情報には敏感ですが、現場に詳しい訳ではありません。
だから、経営と現場の考えを客観的に把握した人事が、両方の要求をすり合わせ、あるべき人材・採るべき人材の方向性を具体的に出していく。それを可能にするのが、人材に関するデータベースです。実際に現場を「うまく回す」要件がデータ化されていれば、“直感”を裏付ける物差しになり得ます。“人をデータで見る”ことに対して、現場からは疎まれるかもしれません。
しかし、これは単に人材をデータで振り分けるということではありません。そのデータを読み、活かすことで、間違った採用をなくし、不幸な職場を回避することができます。そして結果的に、生産性の高い環境が作られるということです。
作馬 人の採用、育成は、経営の中で最もコストがかかる部分。人材に関する情報を効果的にデータベース化していくことは、経営との連携を考える上で非常に大事だと思います。今後、間違いなく必要とされてくるのではないでしょうか。
本来、人の成長は連続的なもの。ひとり一人の過去と現在の相関関係をエントリーシートや面接から読み取り、未来の“職場”に照らし合わせて見極めるのは至難の業と言え、現場の直感に頼らざるを得ないのも無理はない。しかし、合も否も合わせて膨大な人材の情報が集まる企業の人事にとって、そうした情報を記号化するだけで終わらせず、価値あるデータに変えていくことで、「人材の資源化」が果たされるのではないか。
今後の連載では、こうした資源化を行うにあたって何が問題で、どうすればうまく進められるかという点について、今回取材にご協力いただいた企業人事の方々のコメントも踏まえつつ、伊達氏が探っていきます。