IT企業の創業経営者と聞くと、アグレッシブでパワフルな人物を想像するが、株式会社クヌギの代表取締役矢萩浩之氏はとても穏やかな印象で、どんな質問をしても、「まっすぐ」「正確に」言葉を選び、丁寧に話す人だ。こんな誠実で穏やかな人が、競争の激しいIT業界で起業をし、成長させているのだから面白い。

静かな反骨

 矢萩氏がSEOを主力事業とする会社・クヌギを立ち上げたのには理由がある。SEOとは、Search Engine Optimizationの頭文字で、検索エンジン最適化のことを指し、クヌギが提供するのは企業の商品やサービスの検索順位向上をサポートするサービスと「クレジットカードを知る」をはじめとする自社のメディア運営サービスだ。

 2004年にこの業界に身を投じた矢萩氏は、SEO業界黎明期にスキルを磨き始め、経験を積んでいくうちに、ある仮説を立てた。世の中のWebサービスの会社は、元営業職が立ち上げるケースが多い。どんなに技術があっても、お金を払ってくれるクライアントがいなければ成立しないのだから、クライアントを探し出して売り込んでくる営業が主導権を握るのは自然な流れだ。

 だが、一般にIT業界は長時間労働や激務のイメージが強い。矢萩氏には、この業界の労働条件を悪くしている原因のひとつが営業主体の「売り上げ至上主義」であるように思えた。売ってくること、仕事を取ってくることが優先されれば、自社の開発能力とのバランスが崩れやすくなる。全てがそうだとは言わないが、質的にも量的にも安請け合いが起きれば、技術者の疲弊を産むだけでなく、少ないマンパワーでの制作を余儀なくされ、クオリティが下がることになりかねない。それは結果的にクライアントにとっても不幸なルーティーンになっているのではないか。それでは誰も幸せにならない。世の中の会社によくある営業と開発(制作)の対立だが、原因は縦割り組織にあった。クヌギではSEOコンサルタントやライター、編集者がチームを組んで業務に当たる。制作チーム体制である。