新しいクヌギ流「内向き経営」とは

 矢萩氏からは度々「内向き経営」という言葉が出てくる。組織において内向きと聞くと、社内の派閥抗争やメンツと立場を賭けたマウント競争のようなものをイメージするが、クヌギ流内向き経営はもちろんそういう意味ではない。矢萩氏の言葉によれば「職人を育てること」だと言うが、もう少し説明が必要だろう。

 矢萩氏が重視するのは、技術的「質」であり、端的に言えば「量より質」の経営だ。総花的な汎用メニューを用意して、そつなく全方位提案をするよりも、クライアントごとに異なる問題のコアを探し出し、分析し、解決していくオーダーメイドのサービスである。矢萩氏は「Webマーケティングの考え方や手段のひとつとしてSEOがある」という前提を持っているため、一般的なテクニカルSEOの範囲を逸脱してクライアントの業務により深くコミットできる強みがある。

 矢萩氏は、検索でただ上位に上げることだけを仕事の目的とはしない。上位に上がっても全く売り上げにつながらないワードもあれば、結果に直結するワードもある。検索順位の向上は手段であって目的ではない。誰だかわからない多数をWeb技術を駆使して集められるだけ集めても意味がない。クライアントの身になって考えれば、会社の業績に直結する優良なクライアントと繋がることにこそ意味があるわけだ。

 しかし矢萩氏はそれだけではダメだと言う。「売り上げが作れていない真の原因を突き止めなくては解決になりません。ユーザーが自然検索流入後に申込みまで行ったとしても、次のステップでの電話対応やメール対応が悪いため売り上げが上がらないのではないかということまで深堀りして提案していくのです」。つまり、矢萩氏の目指すSEOのゴールは、単なる検索順位の向上や、商品サービスの紹介ページの閲覧数の増加ではない。「ドリルを買う人が本当に欲しいのは穴である」というレビット博士が広めた言葉があるが、SEOにお金を払うクライアントが本当に求めているのは、優良顧客の獲得による利益の増加なのだ。そしてそこで成果を上げるためには、クライアントの業務フロー改善に関わる所までしっかりサポートしなければ、職責をまっとうできないと矢萩氏は考えている。それは仕事への誠実さの問題だ。

知見が深まるチーム体制で「職人」を育成

 しかしここでふと疑問に思う。クライアントの業務フローへの改善提案というレベルの高い業務を、矢萩氏個人なら可能なことは理解できるが、社員にもできることなのだろうか?

「プロジェクトチームに少しずつスキルの違う人がコミットしているので意見を出し合えますし、場合によっては私や他のトップ技術者がチームメンバーをサポートして、一緒に問題点を探し出すんです」。「クヌギ流の内向き経営」では、人材を育てることを重要視しているのだ。

 一緒に仕事をしながら、クライアントの業務フローの改善提案の仕方を学び、それを自分の実力として蓄えていく。クヌギでは、そうして専門的な知見を備えた社員は、矢萩氏が言うところの「職人」へと成長していくのだ。そうなれば、一生食いっぱぐれないだろう。しかしそんなことを教えてしまって大丈夫なのだろうか? と矢萩氏に尋ねてみると「属人的スキルはとても大事なのですが、弊社の仕事はひとりでできることじゃないんですよ。やはりそれぞれ違う高スキルのメンバーが集まったチームがそこには必要で、そんなチームはどこにでもあるものじゃないんです。だからこそ職人集団を抱えていることが、弊社の強みだと考えています」。

「職人」を育成し、クライアントも幸福にする、クヌギ流「内向き経営」とは矢萩浩之(やはぎ ひろゆき)氏
株式会社クヌギ 代表取締役。北海道出身。2004年からSEO事業に取り組み、2009年に法人化。SEOだけではなく、Webマーケティング領域全般を学ぶための教育環境を用意し、社員がそこで得た知識を実践出来る権限を持つことを重視した経営を行う。
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