属人スキルを重視したプロジェクトチーム運営
矢萩氏はここに着目した。実はクヌギには専任の営業が存在しない。それは営業主体でクライアントを増やす数の経営ではなく、一社一社と深く長く付き合う、制作主体の「質の経営」を理想に掲げたからだ。つまり制作陣が徹底して結果を出してクライアントを満足させる仕事のやり方へシフトしていくべきだと考えた。クライアントの満足度が向上すれば、契約は続く。売り上げが増加したクライアントからの口コミで新規の案件が取れたケースはこれまでもあった。営業がいなくとも、成果を出しさえすれば口コミで広まるはず。むしろそれによって強い信頼で結ばれた好循環なサイクルが生まれている。さらに営業コストが劇的に下がることも期待できる。
口で言うのは簡単だが、顧客満足度一本で売り上げを支えるのは簡単ではない。どう変えるか? 矢萩氏にはそこにも勝算があった。過去の経験から、異なるスキルを持つメンバーを集めたプロジェクトチーム体制を組織すれば、もっと緻密にクライアントのニーズに応えられると考えたのだ。そもそも技術者だって、得意領域はそれぞれ異なる。そしてクライアントの案件もまたそれぞれ必要とされるスキルが違う。だから矢萩氏は、プロジェクトごとに必要なスキルを持ったメンバーを配置して、スピーディーかつ柔軟に動ける体制を用意したのだ。
別の角度から見てもこのシステムは都合が良い。Googleの検索アルゴリズムは頻繁にアップデートされる。もし社内で分業体制を作るために組織編成をしようとすれば、そうしているうちにまたアルゴリズムが変わってしまう。組織分業化していてはこの変化の速度について行けない。むしろ一人ひとりの属人的能力を向上させ、社内から適切なメンバーを選んで、プロジェクトごとに柔軟に入れ替えたほうが、状況の変化に素早く対応できるのだ。チーム内に営業的スキルがあるメンバーが入るので、専任の営業が要らない分コストも圧縮できる。案件に応じたチームを作ることで技術者を質的量的に充実させつつ、給与などの待遇面でも優遇できるようになった。
しかしそれにはクライアント側の理解が欠かせない。広告代理店経由で半年や1年ごとに契約が更新されるようなやり方では、営業力をベースにした売り込み競争になってしまう。しかも上手くいこうがいかなかろうが、期間が満了すれば打ち切り。そうやって短期で仕事が終わり、お互いに勝手のわからない新たなクライアントと要件定義を始めると、誤解や行き違い、相互の理解不足が起きやすくなる。さらにクライアントにとってSEOサービス会社はただの下請け扱いになりがちである。
クヌギが目指すような質の高い仕事によって、クライアントとSEOサービス会社が共に成果を出すパートナーとしてタッグを組むためには、長期的な関係を構築していく必要がある。矢萩氏は言う「世の中ではよく実績何千件みたいな数字を強調した宣伝を見かけますが、実はウチの案件数は比較的少ないですね。その理由は契約が長期で続いているからです」。