ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(多様性と包摂)は近年、イノベーション経営や持続的成長戦略の文脈で語られることが増えている。その先進企業であるアドビの女性リーダーに、推進の要諦は何かを聞いた。

基本理念「Adobe For All」と
「Adobe For All in Action」

 SDGs(持続可能な開発計画)の基本的価値観として、その認知が広がったダイバーシティ・アンド・インクルージョン(以下D&I)だが、D&Iが進化した組織ほど自律的なメンバー同士のシナジーが発揮され、イノベーションが生まれやすいとして、企業経営の分野でも注目されている。

 そのD&Iの先進企業の一つが、クリエイティブとマーケティング、電子ドキュメントに関連するソフトウェア世界大手のアドビである。

グローバル成長戦略として推進するダイバーシティ・アンド・インクルージョンアドビ マーケティング本部 バイス プレジデント
秋田夏実 
NATSUMI AKITA 
シティバンク銀行デジタルソリューション部長、マスターカード日本地区副社長などを経て、アドビ日本法人に入社。現在、マーケティング、広報、ブランディングを含むコミュニケーション戦略など、日本でのマーケティング活動全体を統括する。

 アドビ日本法人のマーケティング全般を統括する秋田夏実氏は、「人と人との違いを認め、尊重し合い、すべての人が組織の一員として歓迎される。そういう組織では、個人のクリエイティビティが存分に発揮され、チームでイノベーションを起こせる。アドビではそう信じています」と語る。

 その価値観を端的に表した言葉が、アドビの基本理念「Adobe For All」である。同社ではこの理念を単なるお題目に終わらせず、社員の日々の仕事や行動につなげるための5つの行動規範「Adobe For All in Action」を制定している(図表を参照)。

 

 1つ目の「ユニークさを尊重しよう」とは、一人ひとりの違いにこそ価値があることを理解すること。「同質的な組織は居心地がいいかもしれませんが、異質な視点や価値を受け入れ、刺激し合わないと新しいものは生まれません」(秋田氏)。

 2つ目の「すべての人に耳を傾けよう」は、肩書きや発言力の大きさに意思決定が流される組織ではいけないと戒めたもの。「CEOのシャンタヌ・ナラヤンは『傾聴力』の大切さを繰り返し語っており、みずからもそれを実践しています」(同)。誰もが傾聴力を持てば、新しいものを取り入れやすくなり、3つ目の「チームの力を高めよう」と結び付いていく。

 4つ目の「ルーティンを再考しよう」は、会議やアサインメント(任命)などの場面において、慣例や常識に囚われず、「自分のアイデアを形にしたいという情熱を持っている人には、誰でも公平に機会や時間を与えること」(同)。それと表裏一体なのが、5つ目の「広がろう」であり、これは「何らかのサポートが必要な人は自分で声を上げ、周りからのフィードバックを得ようということ」(同)である。

 すなわち、5つの行動規範はそれぞれが密接につながっており、「シャンタヌ以下、すべての経営メンバーたちがこの行動規範に忠実であろうと真摯に取り組み、日々の行動において実践することで社内への浸透を図っています」と秋田氏は述べる。