すべての人を受け入れる
度量を持つリーダーを育てたい
アドビには基本理念や行動規範を定着させる組織的な仕組みもある。
たとえば、年に1回、世界中の社員が集まって開催される「Adobe For All Summit」。パネルディスカッションには経営メンバー全員が登壇し、「みずからの悩みやそれをどう克服したかなどを率直に語るので、社員との距離感がぐっと縮まります」と秋田氏。同イベントでは、アドビが事業拠点を持つ世界約40カ国での男女同一賃金や昇格の機会均等といった、D&Iの進化に向けた具体的な計画を経営メンバーが発表、その後、そのコミットメントが実際に達成されたことを、具体的な数字をベースに社内外に公表している。
またアドビには、障害を持つ人のための「AccessAdobe」、多様な性的指向・性自認を持つ人たちが集う「AdobeProud」、女性メンバーが参加する「Adobe&Women」、アジア系社員の「Asian Employee Network」など7つの社内ネットワークがある。いずれも自発的に組織されたもので、参加メンバーに共通する問題の対処法を話し合ったり、みんなで社外イベントに参加したりするなどの活動を行っている。
日本法人独自の社内ネットワークとしては、「ワーキングペアレンツネットワーク」などがあり、秋田氏も自身が経験した3人の子育てと仕事の両立などについて、参加メンバーに話したことがある。
こうしたアドビの価値観や活動は社会でも広く知られるようになっており、たとえば大学・大学院の新卒者が最良の就職先を選ぶ「Best Employers for New Grads」(米『フォーブス』誌発表)で2018年に1位となるなど、社会課題に敏感な若者たちからも高く評価されている。
一方、日本の現状を振り返ると、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2020」(2019年12月発表)では、153カ国中121位で過去最低となるなど、D&Iの進化という点で世界からますます後れを取っている。
こうした状況について秋田氏は、「投資家から求められるからD&Iに取り組むという姿勢ではなく、自社のイノベーションや持続的成長にとって不可欠だと、経営トップがどこまで信じているかが重要」と指摘。そして、「現状を本気で変えようとするなら、D&Iの推進について質と量の両面で社内コミュニケーションを徹底的に行い、同時に成功事例をつくること。たとえば、女性やマイノリティを登用してよかったとみんなが納得するような結果が出てくれば、次の人材もどんどん現れます」と続ける。
企業の女性幹部候補のメンターや大学教員など社外活動も活発に行う秋田氏は、「自分が女性だということはあまり意識していない。意見が異なる人を含めて、すべての人を受け入れ、サポートする度量のある次世代リーダーが一人でも増えるように力を尽くしていきたい」と、今後の抱負を語った。
アドビ株式会社
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