カインズの矢継ぎ早のデジタル攻勢をオンラインでサポート
KDDI DIGITAL GATEがフルリモートでDX施策の実行をサポートした事例の一つとして、大手ホームセンターのカインズが挙げられる。カインズは2019年3月に高家正行氏が新社長に就任して以来、「IT小売業に生まれ変わる」をスローガンに、矢継ぎ早のデジタル攻勢をかけている。
2020年1月には、IT技術者を集めたデジタル戦略拠点、「CAINZ INNOVATION HUB(カインズ・イノベーション・ハブ)」を東京・表参道に開設。オンラインで注文した商品の取り置きサービスや店員向け業務アプリの開発、顧客向けスマートフォンアプリに「売り場検索」機能を加えるなど、次々と成果を上げている。
実はカインズもKDDI DIGITAL GATEのリピーターの1社だ。小売業は人手が多くかかり、さまざまな業務効率化が課題となっている。KDDIは昨年、業務効率化を進めることを目的としたPoC(概念実証)の実施について相談を受けていた。
その際、カインズから課題をヒアリングしたのちに、プロトタイプの開発に要した期間はわずか3日間。まさにアジャイル開発による迅速なプロトタイピングを実現したわけだが、そこには2つの狙いがあったという。
「アジャイル開発は、開発プロセスを通して試行錯誤を繰り返しながら成果物(プロトタイプ)を固めていくというものです。とはいえ、経験したことがないお客さまはどのような成果物が出来上がるのか想像がつかず、そのような中では社内の稟議を通すことが難しい。そこで、私たちなら短期間でもここまでのものが作れますということを先にご覧いただいた方がいいだろうと考えました」。佐野氏はそう打ち明ける。
もう1つ、リモート環境でエンジニアチームがどこまでやれるかを検証する狙いがあった。当時、佐野氏は「KDDI DIGITAL GATE 沖縄」(那覇市)に出張することが多く、エンジニアチームとはオンラインでやりとりしながら、プロトタイプ開発を進めざるを得なかった。コロナ危機の影も形もなかった、今から1年以上前の話である。
「エンジニアチームとは3日間、一度も顔を合わせることなくプロトタイプを開発したのですが、最終日のレビューでは期待以上のものに仕上がっていて、衝撃を受けたくらいです。このときの経験から、リモートでも問題はないと確信しました」(佐野氏)
提案したプロトタイプは、正式案件として受注し、その後、カインズ側の要望も反映しながら、ブラッシュアップしていった。
このときのプロジェクトにエンジニアとして携わったKDDI サービス企画開発本部 アジャイル開発センターの廣田翼氏は、「最終的には1カ月程度のプロジェクトになりましたが、成果物はもちろん、アジャイル開発のプロセスについても評価いただいたことが非常にうれしかった」と振り返る。
KDDI
サービス企画開発本部
アジャイル開発センター
アジャイル開発第5グループ 課長補佐
前回の提案後しばらくたって、カインズから店舗でのCX(顧客体験)を改善するために力を貸してほしいと、改めて相談が持ち掛けられた。
その時点では、すでに新型コロナの感染が広がっていたため、プロジェクトは全てオンラインで進めることになった。先述のようにカインズはリピーターであり、KDDI DIGITAL GATEの開発プロセスを一度経験している。だが、フルリモート環境でのアジャイル開発は未経験のため、KDDI DIGITAL GATEでは万全を期してリハーサルを行うことにした。
「毎朝その日の成果物について議論し、夕方には出来上がったプロトタイプを確認するというワンデイ・スプリントを5回やりました。最終的にはオフラインと遜色のないレベルでプロセスを進められるようになり、本番でもいいスタートが切れました」(廣田氏)
約2カ月間のプロジェクトを経て開発したCX改善のための2つのプロトタイプは、カインズとしても実用化に向けて検討しているとのことだ。
組織と組織だけでなく、人と人との信頼関係から共創が生まれる
カインズはなぜスピーディーにDX施策を展開できるのか。廣田氏は次のように述べる。
「KDDI DIGITAL GATEのプロセスの進め方とカインズさんのご担当者のリズムが合っていることが、1つの要素として挙げられるかもしれません。私たちは1日単位で成果物を作ってお客さまに提案します。その成果物をお客さまが社内の関係者に確認していただき、フィードバックを得るというサイクルなのですが、カインズさんとはその仮説検証サイクルを高速に回すことができました」
カインズのDX推進チームには、課題を見つけたらすぐに解決のための仮説を立て、プロトタイピングで検証しながら進化させていくという、スピーディーで柔軟な意思決定ができる組織風土が浸透しているということなのだろう。そうした企業であれば、KDDI DIGITAL GATEのポテンシャルを最大限に引き出し、素早く成果を上げられるといえそうだ。
ただ、世の中はそうした企業ばかりではない。DX推進に向けた組織体制の整備、意識や目的の共有が十分にできていない企業でも、KDDI DIGITAL GATEとの共創はうまくいくのだろうか。
「今抱えている課題や困り事が何なのか教えていただければ、一緒に悩むところから私たちは伴走します。新しいプロダクトやサービスを作れば、DXを実現できるわけではありません。意思決定や開発のプロセス、組織風土まで変わらないと大きな変革を成し遂げることはできません。仮説検証サイクルを高速に回しながら、私たちと共に悩み、考えていけば、必ず成果は期待できます」と、佐野氏は力強く語る。
コロナ禍によって、5GやIoTをはじめとするデジタル環境への対応と変革が一層強く求められる中、KDDI DIGITAL GATEは今後、クライアント企業とどのように伴走していくのだろうか。
その点について廣田氏は、「今は短期間でプロトタイピングとその検証を行うケースが多いのですが、今後はお客さまと長期的な信頼関係を築いて、世の中で広く利用されるような製品・サービスを開発していきたい」と述べた。
一方の佐野氏は、「真の共創は人と人との関係の中から生まれるものだと思います。そういう意味では、KDDI DIGITAL GATEとクライアント企業という組織と組織の信頼関係だけでなく、例えば『廣田のチームと仕事がしたい』と言っていただけるような、個人レベルでの信頼関係も構築していきたいと思っています」と話す。
クライアントとの共創活動を通じて、KDDI DIGITAL GATEと、そのメンバーも常に進化を続けているようである。