多様な価値観を持った、チャレンジする組織に変革
信國 マーケティングはDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進において、比較的最初に手掛ける企業が多い領域です。マーケティングに限らず、広くDXを推進していく中で、CFOおよびCFO組織として、どんな仕組みを用意していますか。
横田 マーケティング領域では、マーケティング部門にファイナンスのメンバーも配置し、広告の投資対効果を定量化して、きちんと評価する仕組みを構築しました。今まではどちらかというと、いろいろな広告活動を展開する中で、プロセスを把握し切れていなかったため、PDCAがなかなか回らないという問題がありました。
そういった意味では、データをしっかり活用して、プロセスを管理するとともに、結果とひも付けて、投資対効果を高めていくような施策も今後は実施していきたいと思います。
マーケティング領域はデータがそろっていて、その活用については改善が進んでいますが、広く会社の中を見渡すと、デジタル化が十分に進んでいないとか、データがばらばらな形式で散在しているとか、それを活用する人材も不足しているといった、伝統的な日本企業がよく抱える課題を当社も抱えていて、その解決は大きな課題です。とはいえ、手をこまねいてはいられませんから、足元ではERP(統合基幹業務システム)を刷新し、データ基盤を整備しつつ、社内の人材を強化することにも取り組んでいます。
酒類・飲料事業はもともとメーカーである私たちから、卸・小売りを通して消費者に販売するB2B2Cの事業でしたが、テクノロジーの進展により、消費者に対してダイレクトにビジネスができるようになり、当社でもEC(インターネット通販)比率が高まっています。お客さまと直接のやりとりが増えれば、それだけデータの蓄積も進みますし、新たなチャレンジもいろいろできるだろうと期待しています。
ヘルスサイエンス領域においては、19年に無添加化粧品・健康食品のD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー:メーカー直販)を手掛けるファンケルと資本業務提携を結びました。彼らのノウハウをしっかりと学び、それを酒類・飲料事業にも取り込んで、DXを加速させていきたいと考えています。
近藤 外部からの専門人材の採用も積極的に行っておられますが、社内変革を推進するに当たっての課題はなんですか。
横田 組織のメンタリティーとして、失敗するのが嫌だという部分がまだあります。しかし、事業環境の変化は加速度を増す一方ですから、アジャイル(機敏)に対応していかないといけません。こんなふうにデータを分析したら、こんな効果がありそうだ、ということをいち早く構想して、とにかくやってみるという方向にマインドセットを変えていきたいと考えています。
今はどちらかというと、各レイヤーでいろいろなチェックをかけて、物事を慎重に決めています。分厚い資料を一生懸命作っていたら、いつの間にか1年たっていたなんてこともありますから、もっとスピーディーにトライして、高速にPDCAを回していく。そんなメンタリティーに変えていくことが重要です。
信國 組織のメンタリティーを変えるためには、何が必要でしょうか。
横田 組織の価値観、多様性を広げていくことです。マーケティング部門が、山形光晴(元プロクター・アンド・ギャンブル、現キリンビール常務執行役員マーケティング本部マーケティング部長、事業創造部長)が来たことで活性化したように、外の視点を持った人たちと一緒に働きながら、物事に取り組む組織にしていかないとうまくいかないでしょう。
当社には長年、ビールビジネスでやってきたというカルチャーが深く浸透しているため、良い面としては、指揮命令系統が明確で、方向性が決まると一致団結して大きな力を発揮しますが、一方でビジネスモデルが大きく変わったり、事業環境が変化していくときに、迅速に対応できない面があります。
特に新しい領域については、より多様な視点、多様な価値観を持つとか、多様な経験を持った人たちが一緒になってつくり上げていかないと、うまくいかないのではないかと思っています。現在は経験者採用も増えていて、今年のキャリア採用者比率は40%以上になっています。伝統的な日本企業から脱却し、チャレンジする組織に変貌していかなくてはなりません。
デロイト トーマツ CFOプログラム
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