科学基盤の脆弱化への
強い危機感が背中を押す
先日亡くなられた小柴昌俊・東京大学名誉教授が2002年にノーベル物理学賞を受賞したとき、多くの記者から「ニュートリノの研究は何の役に立つのか」という質問が繰り返された。小柴名誉教授は、「何の役にも立たないかもしれない。しかし基礎研究を止めることは国の科学発展の基盤を失うことだ」と強調した。
ニュートリノの実験施設であるカミオカンデ向けに開発された光電子増倍管の技術が、世界トップクラスの光学センサー製品の実用化を促したように、基礎研究に必要な周辺技術が、多くの実用的な先端技術を生み出してもいる。基礎研究はまさに「科学発展の基盤」という”効用”をもたらすのだ。
日本の科学技術政策は一時、経済政策や成長戦略の一部と位置付けられたことにより、大学などの研究機関に補助される科学研究費も、「選択と集中」が進み、「成果が出るかどうかは分からない」基礎研究への配分は大きく減った。
研究者自身も、目先の成果を急ぐようになり、それがますます基礎研究の脆弱化につながった。ノーベル受賞者たちだけでなく多くの研究者から、「今後、日本からノーベル賞受賞者は出なくなる」と深刻な危機感が表明されたのもそのためである。
こうした事態に、企業もまた危機感を強めていた。基礎研究の脆弱化は、それを放置すると有力な実用化技術を生み出せなくなり、回り回って企業の競争力の低下へとつながる。
いわゆる産学連携による共同研究とも違う基礎研究への助成の充実は、CSRに対する企業の”本気度”を示すものであるともいえる。
そうした基礎研究の支援は、一つの進化を遂げたCSRの姿である。