有線放送は元祖サブスクリプションサービス
USEN-NEXT GROUPは、非常に幅広い事業を手掛ける企業群である。事業は大きく、店舗向けと個人向けとに分けられる。
「店舗向けサービスは有線放送時代からの多くのお客さま、現在全国で75万店舗の契約がありますが、そういった店舗に向けて提供するものです。音楽配信だけでなく、決済システムや電力の提供など、IT化や省力化といった店舗の課題を解決すべく、総合的にカバーしています。個人向けサービスはコンテンツ配信ですね。
有線放送という事業は、店舗向けのインフラ提供と音楽コンテンツ配信という2つの面を持っています。有線放送というのは『定額で音楽聴き放題』という元祖サブスクリプションなんですよ。それを映像にも広げて、世界初の定額での映像コンテンツ配信も始めました。今は『U-NEXT』という名前で展開しています。
アナログ時代の音楽放送から今の映像サービスに事業を転換していく中で必要不可欠だったのが、高速インターネット網です。これを持っていたことにより、結果として、お店のIT化にもコンシューマ向けのサービスにもつながったのです」(宇野氏)
創業以来の事業を継続しつつ、時代を先取りしたデジタル化を進める中で、店舗向けとコンシューマ向けの両方の顔を持つに至ったのだ。店舗向けではネットワークを利用した電子マネー決済やインターネット回線、防犯カメラや店舗向けアプリの作成などネットワークを利用するサービスを広く提供しているし、個人向けでは動画配信サービスのU-NEXTを中心に展開している。これらのサービスは突然現れたのではなく、有線放送時代からの積み重ねなのだ。
起業家ではなく、経営者を育てたい
こうした形でUSENを発展させてきた宇野氏は、社長発掘プログラムでどういう人材を求めているのか。また、なぜ公募という形を取ったのだろうか?
「社内ではそういうメッセージを出しており、すでに何人か社長も生まれていますが、社外に対して公募するのはこれが初めてです。根本にあるのは、『日本の中に経営者をちゃんと育てる仕組みを作りたい』という思いです。
経営は座学だけでなんとかなるものではありません。実際に会社の経営を経験し、いろいろ実地で学んでいくことで、みんな本物の経営者になっていく。自分で体験してみないと、経営者にはなれないんです。今回のプログラムで合格した方には本当に社長になってもらい、成長の機会をUSEN-NEXT GROUPが提供します。そういう意味では社内でも社外でも変わらないのですが、これまで外部で違う経験をされてきた人が我々の経営資源を使ったら、面白いことができるのではないかという期待もあります」(宇野氏)
社長発掘プログラムで求めているのは、「起業したいから投資してほしい」というスタートアップ企業オーナーではない。「育てたいのは起業家ではなく経営者」と宇野氏は話す。そこには、スタートアップを含め様々な企業を見てきた同氏ならではの考えがある。
「日本では、大企業で頑張って出世し、自分の権限や地位を上げていき、社長、あるいは子会社の社長になるか、あるいは起業してベンチャー企業を始めるか、ほぼその二択しかないんですよ。常々それがいびつだなと思っていました。その間にある、自分がリーダーシップをもって組織を成長させていく経営者を育てたい。そう考えています」(宇野氏)
そういう意味では社長でなくても、そのくらいの決意を持って取り組んでくれる人なら事業部長でもいい。ただ「社長といった方が、我々が求めている人に刺さってくれるかな、という気持ちでした」と宇野氏は話す。応募の際に、自分のオリジナルの事業プランがなくても構わない。社長発掘プログラムの目的は“事業を任せられる経営者を募集し、育てたい”ということだからだ。