デジタル技術がもたらした第4次産業革命に、100年に1度といわれるパンデミック(感染症の世界的大流行)が重なるなど、社会はパラダイムシフトのただ中にある。私たちは、新しい社会の姿をどのように描き、築き上げていけばいいのか。「新しい社会の姿を構想し、ともに『情報未来』を築く」というコンセプトを掲げるコンサルティングファーム、NTTデータ経営研究所の柳圭一郎社長と三谷慶一郎エグゼクティブオフィサーに聞いた。
従来の社会機能を分解し、デジタルで再構築する
──ニューノーマル時代のデジタル社会を見据え、私たちは今後、どのような変革を目指すべきでしょうか。
NTTデータ経営研究所
代表取締役社長
柳 新型コロナウイルスの感染拡大は、さまざまな変化を加速させました。その一つが、固定化されてきた目的と手段の分離です。
身近な例でいえば、オンラインによる業務が日常化したことで、印鑑や紙の書類を前提とした作業の必要性が薄れました。これまでは「同意の意思表示」という目的と、稟議・押印という手段は切り離せない関係にありましたが、オンライン化によってその関係性が一気にアンバンドル(分離)化しました。
大学などの講義も、従来はキャンパスや教室がなければ成り立たないと考えられてきましたが、オンライン講義が日常となり、「教室に通う」という手段が切り離されたことで、世界中のどこからでも、誰でも講義に参加できるという新たな常識が生まれました。
同様に行政手続きや商取引、医療など社会のあらゆる局面で、デジタルによるアンバンドル化が今後も進むでしょう。非対面・非接触でさまざまな業務をこなせたり、サービスを受けられたりすることは、障がい者や高齢者、育児・介護で生活を制限されている人たちなどを含めて、あらゆる人たちが社会参画する上でのハードルを下げることにつながります。
ですから、未曽有の災厄である今回のパンデミックを、従来型の社会機能を分解し、デジタルを前提として最適な形にリデザイン(再構築)するチャンスだと、私たちは前向きに捉えるべきです。
三谷 私たちの社会はまだ、デジタルの強みを生かし切れていません。企業や行政の業務プロセスは、紙や対面を前提としていますし、SNSによるデマやフェイクニュースの拡散など、社会のデジタルリテラシーも十分ではありません。
国全体の感染状況をモニタリングすることや、給付金・助成金の支給などにかなりの時間と労力がかかってしまったことが象徴的ですが、デジタルで社会をリデザインするためには、旧来の社会制度や文化的な慣習、さらには私たちが持つ価値観そのものを抜本的に書き換えることが必要です。
積み上げてきた歴史や経験を自ら否定するのは難しいことですが、山積する社会課題を解決するために躊躇している時間はもうありません。