かつて、多くの日本企業が欧米企業の製品やサービスを参考にしつつ、そこに新たな価値を付加することで世界市場を席巻した。こうした「創造的模倣戦略」が通用する分野は、いまでは少なくなっているように見える。エレクトロニクスや半導体などの分野では、かつて隆盛を極めた日本企業が厳しい状況に置かれている。そこで求められるのが、新しいコンセプトを創造し、事業として育てること。そんな問題意識が、東京理科大学大学院イノベーション研究科技術経営(MOT)専攻の授業科目「コンセプト創造論」の根底にはある。以下は、授業を担当する宮永博史教授の講義をコンパクトにまとめたものである。
顧客価値コンセプトと
マネジメントコンセプト
高度経済成長の時代、日本企業は欧米で生まれたコンセプトを模倣し、そこに新たな価値を付け加えることで事業を発展させてきました。米国のRCAが初めて市販したカラーテレビ、インテルが生み出したDRAMなど多くの分野で、日本メーカーは先行企業を駆逐して世界市場を制覇します。
MOT・宮永博史教授東京大学工学部電気工学科卒業、MIT 大学院(EE&CS)。NTT 電気通信研究所、AT&Tベル研究所スーパーバイザー、アビームコンサルティング(現)取締役等を経て、2004年より現職。著書に『顧客創造実践講座』など。
しかし、繁栄は永続的なものではありませんでした。現在、これらの分野において、日本勢は韓国メーカーの後塵を拝しています。
創造的模倣戦略により、後発企業が成功した例は多くあります。カラーテレビやDRAMだけではありません。パソコンはゼロックスが生み出し、アップルが模倣して大ヒットさせましたが、やがてその覇権はマイクロソフトに移行しました。完全ノンアルコールビールはキリンビールが最初に売り出しましたが、サントリーにシェアトップを奪われました。
キャッチアップ段階で求められる戦略は、ある意味ではシンプルです。先行企業のモノやサービスを参考にして、プラスαの何かを加える。創造的模倣戦略が成功すれば、№1の座を奪取することも可能です。
しかし、先頭に立つと、もうお手本はありません。模倣するコンセプトがなくなれば、自分たちで生み出すほかありません。日本の大企業の多くは、いま、そんな苦労を味わっているように見えます。製品やサービスのコンセプトをいかに創造するか、そのコンセプトをいかに実現するか。それは、日本の多くの産業における重要なテーマです。
新しいビジネスを創造するコンセプトには、2つの側面があります。顧客価値コンセプトとマネジメントコンセプトです。前者では「どのような価値を誰に対して提供するのか」が問われます。斬新な商品のアイデアなどは、この中に含まれます。一方、後者ではその価値をいかに実現するかが問題となります。
ここで悩ましいのは、2つのコンセプトが相反するケースが多いことです。誰もが驚くような画期的な顧客価値コンセプトであるほど、実現には大きな困難が予想されます。逆に、実現しやすいものであれば、顧客価値コンセプトとしてのインパクトはあまり期待できないでしょう。