さまざまなサービスに金融機能を組み込むエンベデッド・ファイナンス

――デジタルシフトの先にある、新たな金融サービスの形とはどのようなものですか。

隈本 すでに世の中で広く利用されているさまざまなサービスに金融機能を組み込む「エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)」が、一つの方向性として挙げられます。

金融サービスの「グレートリセット」をいかに実行すべきかRidgelinez
Principal
隈本正寛

 エンベデッド・ファイナンスとは、例えば、金融サービスを使うときに、わざわざ金融サービス独自のアプリやインターネットバンキングにアクセスするのではなく、ユーザーが普段使っているデジタルサービスの中に金融機能が組み込まれていて、簡単に使えるような仕組みです。先進的なグローバル金融プレーヤーは、異業種と連携しながらエンベデッド・ファイナンスを実装しています。

 例えば、ゴールドマン・サックスは格安航空会社の米ジェットブルー航空(JetBlue)と提携し、ジェットブルーの航空券購入画面で後払いサービスを提供しています。また、シティバンクはシンガポールの配車アプリ大手のグラブ(Grab)と提携し、アプリで利用できる消費者ローンを提供していますし、米ストライプ(Stripe)はECサイト構築サービスのショッピファイ(Shopify、カナダ)と決済をはじめとするさまざまな金融サービスを一体的に利用できるようにしています。

――製造業でもエンベデッド・ファイナンスの事例はありますか。

松原 ドイツのコメルツ銀行はダイムラーと共同で実証実験を行っています。ダイムラーのEV(電気自動車)トラックが充電ステーションに立ち寄ると、人を介さずに充電料金を自動的に決済する仕組みで、車両1台ごとに付与されたIDに基づいてM2M(マシン・トゥ・マシン)で決済を行うものです。

 同じくコメルツ銀行がドイツの建機メーカーと組んで実施している事例もあります。工場内の機械1台ごとにセンサーを取り付け、その稼働状況を分析することで業績を予測し、それに基づいて融資の返済額を変動させるというものです。

隈本 エンベデッド・ファイナンスは、金融機関とサービスを提供する事業者がそれぞれAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を開放してシステム連携するだけでなく、それをインフラとして提供されるスマートヘルスケアやスマートマニュファクチャリング、スマートリテールといった上層部の仕組みを作っていくことがとても大事です。

 それに当たっては、異業種が連携するコミュニティーをつくって、新しいサービスをみんなで生み出していくエコシステム(生態系)を形成することが有効です。

金融サービスの「グレートリセット」をいかに実行すべきかエンベデッド・ファイナンス実現には、システムだけでなくDXに関わる方法論や技術についての包括的な組織能力を獲得することが不可欠
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ビジョン策定から人材育成まで、金融機関のDXをトータルでサポート

――金融機関のDX実現に向けたRidgelinezの取り組みについて教えてください。

松原 一つは、デジタルのケイパビリティを獲得していただくための人材育成です。役員から若手・新入社員まで、対象となる階層に応じて、DXを支える人材としての目標・要件を設定した上で実施する「DX人材育成研修」や、主に経営層を対象とした「DXビジョンワークショップ」などのメニューがあります。

 もう一つは、DXサービス創出に向けた支援で、金融とITに関する「国内外マーケットトレンドリサーチ」や「デジタル戦略立案支援」「事業化支援ワークショップ」「事業化・実用化に向けたPoC(概念実証)支援」などのサービスがあります。

隈本 役員の方々は、金融機関のデジタル変革や将来像について具体的にイメージし、ビジョンを発信することが求められます。われわれが提供するDXビジョンワークショップでは、計5回にわたってワークショップを行い、5年後、10年後の世の中、テクノロジーの動向を展望しながら、自社の将来像を描き、最終的には長期戦略方針・ビジョンを策定します。

 一方、DXの実務を担う中堅社員、若手社員の人たちは、デジタルなマインドセットを身に付けると同時に本業でデジタル技術を活用する能力が必要ですし、内製化の実行部隊となるIT部門や情報システム子会社の方々については、デザイン思考やアジャイル開発などDXで必要となるスキルセットを習得してもらう必要があります。それぞれの課題に対して、Ridgelinezでは座学とワークショップを組み合わせたプログラムを提供しています。

 先ほど申し上げた通り、エンベデッド・ファイナンスのようなクロスインダストリー型の新しいサービスを提供するためには、異業種が集まるコミュニティーやエコシステムを形成することが求められます。将来的には業種を超えた新事業創出をサポートするサービスも提供していきたいと考えています。

●問い合わせ先
Ridgelinez株式会社
〒100-6922
東京都千代田区丸の内2-6-1 丸の内パークビルディング
TEL:03-5962-9391(代表)
https://www.ridgelinez.com