組織を変革するのではなく
今ある組織の強みに、新たな成功例を積み上げる

 關口社長はヤンセン台湾でも貴重な経験を積んできた。

 台湾では、医薬品メーカーの業界団体である中華民国開発性製薬研究協会(IRPMA)の会長および、在台湾米国商工会議所の共同委員長に就いていた。IRPMAの会長として、台湾政府の衛生福利部長(厚生労働大臣に相当)と2カ月に1度対話するなどして、医薬品イノベーションの価値と革新的な医療へのアクセスの重要性を積極的に台湾政府に訴えてきた。台湾は、政府が強力なイニシアチブを発揮してコロナ禍を封じ込めていたことでよく知られているが、關口社長が会長を務めた業界団体による提案や支援活動も、その一翼を担った。

「台湾での経験を基に、日本においても官との連携を強めながら、新薬の研究・開発や普及を加速させていきたいと思っています」

 また、人材育成やインクルーシブな企業文化の醸成に注力し、強固な組織体制を構築するとともに、事業を大きく牽引し、ヤンセン台湾を第6位の製薬会社に成長させた。

「人口2300万人ほどという限られた台湾市場の中で、一企業として社会に貢献しながらどのように成長していくのかが大きな課題でした。それに取り組む中で、官民連携で競合各社が同じ目標を目指していくことの大切さを痛感しました。また、社内では各社員の持ち味やスキルを存分に引き出し、各自のキャリアプランに基づきながら適材適所で力を発揮できるような人材登用を行いました。日本でも同様に、職場環境・文化の醸成と人材への投資を行っていきたいと考えています」

 ヤンセンファーマには、1978年の設立以来積み重ねてきた実績や知見、強みがある。「就任後、日本法人をどう変革するのかと尋ねられる機会が多々あります。私としては組織を変えるというよりも、今ある組織の強みの上に、新たな成功事例を積み上げていきたいと思っています」と關口社長は説明する。

 そう言う背景には、16年に免疫・感染症事業本部長として日本へ2度目の赴任をした際の苦い経験があった。当時、ヤンセンファーマは慢性疼痛の薬剤で輝かしい実績を挙げていたが、将来性を考えると免疫疾患領域への投資に舵を切るべきタイミングだった。そこで、本部長として配属されてすぐに、事業部全員の前で「これからは免疫疾患領域に注力します」と宣言したという。しかし事業部員からの反応は芳しくなく、その場がざわついて、しばらくの間は事業部員からのフィードバックが返ってこなくなってしまったという。

「その後の免疫・感染症事業本部における製品ポートフォリオを見ると、あのときの判断は間違っていなかったと思います。ただ、事業部員たちの会社や製品に対する想い、それまで培ってきたさまざまな方々との関係性に対する気持ちを十分にくみ取ることができなかったのは、リーダーとして未熟だったと反省しています。ビジネスとしての判断が正しかったとしても、それを実践する社員の気持ちが付いてこなければ、組織としての『正』となるとは限らない。このことは肝に銘じています」と關口社長は語る。

 その上で、「私が退任する時にどんな組織が残るのかを常に考えています。従業員一人一人の個人としてのキャリアゴールと会社のニーズをマッチングさせる人材育成や人材開発の仕組みを強化しています。そして、組織として個人としての成長の意識付けや、インクルーシブな文化の醸成を通して、全従業員の強みが発揮される、成長できる会社にしたいと考えています」

 積み重ねた経験を糧にさらに大きくなる。ヤンセンファーマの成長は、まだまだ続きそうだ。

海外でキャリアを積んだ46歳の日本法人トップが取り組む、新たな成功例を積み上げられる組織づくり關口修平(せきぐち しゅうへい)氏
ヤンセンファーマ株式会社代表取締役社長。1974年生まれ。96年に米国ダートマス大学を卒業。米国デューク大学大学院で経営学修士号を取得。2004年に米国ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社。複数のグループ会社、オーストラリア、日本、米国でキャリアを重ね、16年にヤンセンファーマ免疫・感染症事業本部長に就任。19年にヤンセン台湾マネージング・ディレクター就任。21年より現職。