新型コロナウイルスの世界的拡大によって、あらゆる企業にサプライチェーン改革が求められている。ただしその際、経済合理性の追求だけでなく、SDGs/ESGといった社会課題解決の視点を考慮に入れなければならない。そのためには、デジタル化とデータドリブンのアプローチによる「デジタル・サプライチェーン・マネジメント」が不可欠であり、これは時代の要請でもある。

DX3.0時代のSCM再構築

野村総合研究所 経営DXコンサルティング部 ビジネスプラットフォームグループ グループマネージャー 寺坂和泰KAZUHIRO TERASAKA
製造業のグローバルサプライチェーン戦略立案、ロジスティクス現場改革、基幹システム刷新に伴う経営管理プロセスの高度化など、変革プロジェクトを多数経験。現在、デジタルプラットフォームを活用した経営改革やオペレーション最適化を推進するビジネスプラットフォームグループを率いる。主な論文に、「グローバルオペレーションの確立の方法論と要点」(野村総合研究所『知識資産創造』2015年5月号)がある。

 我々は、DXの進化を次のように考えている。

 まずDX1.0は、RPAなどによる既存業務の効率化や施設稼働率の改善などに取り組むデジタルバックと、CX(顧客体験価値)の向上や顧客情報の活用などを目指すデジタルフロントに大きく分かれる。いわゆる一般にいわれるDXである。

 DX2.0は、時には業界を超えて他のプレーヤーと協業し、ビジネスモデル改革やバリューチェーンの再構築、さらにはビジネスエコシステムによるイノベーションの創発など、非連続的な変化を目指す。

 そしてDX3.0は、SDGsやESGにまつわる社会課題――最近であれば、脱炭素、天然資源の保護・保全、児童労働や差別などの人権問題、ダイバーシティなど――の解決と、持続的な経済成長の両立に向けてデジタル技術を活用する。

 新型コロナウイルスのパンデミックによって、世界各地に広がったサプライチェーンの見直しと再構築がにわかに優先順位の高い経営課題となったが、そこにはグローバルの視点と論理が不可欠である。ひるがえすと、サプライチェーン改革には、我々が言うところのDX3.0のコンテキストで考える必要がある。

レイヤー別の
デジタルソリューション

 我々は、サプライチェーンを「デザイン・設計」「計画」「現場オペレーション」という3つのレイヤーに分け、それぞれの特性に基づいた課題を洗い出し、対応する解決施策を、デジタルソリューションとして提供している。最初のポイントとなるのは、サプライチェーンの全体最適化に向けた「デザイン・設計」である。

 サプライチェーンは、原材料、工場、倉庫、顧客という物流ネットワークであり、各国・各地域の需要に、いかにスピーディかつ効率的に対応するかが課題であるが、トレーサビリティをはじめ、繰り返しになるが、今後はDX3.0のさまざまな社会課題を考慮しなければならない。

 我々が提供するデジタルソリューションでは、まずサプライチェーンにまつわる情報をもれなくデータとして最適化計算モデルに組み入れ、シナリオ別に試算・比較しながら、サプライチェーン全体の「あるべき姿」をシミュレーションする。

 その際、「デジタルツイン」という技術を使えば、たとえば在庫の前方配置か後方配置かの選択、仕入先やそのルートの変更など前提条件や変数を自在に変えながら、数百万以上のパターンをシミュレーションできる。

 こうしたデジタル技術を活用することで、人手の計算では算出不可能な膨大なオプションの中から最適解を導き出せる。我々の経験では、コスト、時間、ルート、在庫水準など、さまざまな制約条件を最適化することで、平均10~15%のコスト削減効果を得られることがわかっている。

 また、このモデルにCO2排出係数を入れることで、サプライチェーン全体のCO2排出量を算出し、コストとCO2排出量の最適バランスの取れるサプライチェーンをデジタル上で認識可能となる。