次いで、計画のレイヤーでは、サプライチェーン最適計画に必要な需要について「ベイズ統計学」を応用した需要予測ツールを独自に開発・提供している。ベイズ統計学は、未知で不確実性の高い事象を推定するツールで、いまやゲノム解析、創薬、自動運転、ネット通販など、ビジネスのさまざまな現場で使われており、変数がたえず揺れ動く需要予測には打ってつけである。
ヨーロッパ地域における自動車の需要予測では、営業部門の見通しと実績の間に20%程度のブレがあったが、ベイズ統計学を用いたことで、これを10%程度まで縮めることに成功した。ところが、新型コロナウイルスのパンデミックにより、需要予測を見直さなければならなくなった。従来の統計モデルの場合、今回のように急激かつ大幅に落ち込むと、需要はもう戻ってこないという予測が導かれてしまう。そこで、機械学習モデルを活用すれば予測の精度が高まるかというと、落ち込みの期間が短すぎて、教師データが足りない。
我々が開発したベイズ統計学を用いたツールは、このように期間が短く、機械学習では答えが出せないケースにも対応可能で、コロナに関連する要因をパラメーターに加味することで予測を随時更新できる。この要素は、他の社会課題リスクが発生した際、そのサプライチェーンへの影響を係数化することにより、同様に需要予測ツールとして機能し、DX3.0を体現するものとなっている。
SCMのデジタル化は
時代の必然的要請
デジタルツインによるサプライチェーンの最適化シミュレーション、ベイズ統計学を用いた精度の高い需要予測などデジタルソリューションによって、サプライチェーン改革は大きく進化している。
データドリブン経営が叫ばれて久しいが、そのためには、サプライチェーン上に生じている現象を数理問題に置き換え、アナリティクスにつなげるプロセスを構築する必要がある。そして、こうした分析結果を踏まえたうえでアルゴリズムを選択する、すなわちどのような実行施策とひも付けるかが重要である。
DX3.0時代のサプライチェーン・マネジメント(SCM)は、経済合理性に加えて、社会問題も考慮に入れなければならない。それは、SCMがより複雑化し、リスクや不確実性にさらされることを意味する。したがって、デジタルSCMは時代の要請であり、マストの取り組みといえよう。
ただし最後は、「現場」で実践できるかどうかで決まる。そのためには、導入方法やそのプロセスだけでなく、人々のマインドセットや行動も変えていかなければならない。変革の実行に寄り添い、現場を支援する存在が不可欠であり、我々はこうしたリアルなサポートも含めてソリューションと考えている。
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