ケースメソッドの採用と
“T字型人材”の育成
第1に、ケースメソッド。学生は具体的な企業の事例をもとに議論し、戦略や財務、人材、組織といった分野横断的な思考、意思決定を追体験しながら学んでいる。
例えば、あるメーカーが中国への工場進出を検討しているとする。学生は前もってそのケースを読み込み、自分の考えをまとめた上で授業に臨む。「進出すべき」という意見もあれば、「進出は見直すべき」と考える学生もいるだろう。授業では教員のリードのもとで、このケースについて徹底的な議論が行われる。
「進出すべきという意見なら、資金的な手当てをどうするのか、人材や組織をどのように編成するのかといった次の論点があります。授業では財務だけ、組織だけを切り離して考えるのではなく、複合的、分野横断的な視点から議論を進めます。それは、企業の経営会議でも同じでしょう」(河野教授)
こうして、学生たちは知識をいかに組み合わせるか、いかに活用するかという方法論を身に付ける。KBSは単に経営の知識を伝えるというだけの場ではない。その授業はケースを題材にした学生同士、学生と教員との真剣勝負の場である。その基盤を提供するケースの大半は専任教員の手によるものだ。
「経営に関する広範な領域において、KBSには実績豊かな専任教員がいます。理論的なフレームワークを参照しながら、個別の事例について議論を進めるためには、きちんとした学問的なバックグラウンドが求められます。ケース教材を自ら開発し、そしてケースメソッドを主導する専任教員の質と量が、KBSの最大の強みであると自負しています」と河野教授は語る。
第2に、“T字型人材”の育成について。KBSでは経営全般に対する理解と専門性という横・縦の2軸を伸ばすこと意識した科目構成、プログラムが用意されている。
「専門性はもちろん重要ですが、例えば『財務はわかるが、生産や営業はわからない』ということでは、ビジネスリーダーを目指すのは難しい。リーダーはさまざまな分野の基礎、そして各分野の関係性を理解する必要があります」と河野教授。そこで、KBSでは基礎科目と専門科目とのバランスを重視している。基礎科目は全員必修。多様なバックグラウンドを持つ学生が一堂に会することで、化学反応を誘発する効果もあるようだ。
慶應型ケースメソッドの流れ
参加者は、まず現実の経営理念の実態をもとにして作成された教材(ケース)を受け取る。ケースには、経営者、管理者が判断し決定すべき当面の問題に関連する周囲の状況や意見などが記述されている。このケースをもとに、参加者は次の三つの学習プロセスに主体的に「参加」することになる。