「ビッグデータ」というキーワードが注目されている。大量かつ多様な、刻々と生み出されるリアルタイムなデータを、従来よりも格段に低コストで利用することが可能になったためだ。ビッグデータを上手に活用して新たな気付き・洞察、あるいは迅速な判断を実現することで、経営やマーケティングを大きく革新していく道が開けたのである。
脚光を浴びている「ビッグデータ」だが、これはまったく新規の概念というわけではない。
栗原 潔氏 日本IBM、ガートナー ジャパンを経て2005年より現職。エンタープライズITと知的財産権に関するコンサルティングに従事。著書に『グリーンIT』(ソフトバンククリエイティブ)、訳書に『エスケープ・ベロシティ』『ライフサイクル・イノベーション』(共に翔泳社)など。技術士(情報工学)。金沢工業大学客員教授。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。info@techvisor.jp
「ビッグデータ活用の本質は、データを上手に活用してビジネス上の知見を得るということであり、従来のデータウエアハウスやビジネスインテリジェンスなどの考え方の延長線上にあります」と、エンタープライズITに詳しいテックバイザージェイピーの栗原潔氏は説明する。
それがここ数年、にわかに注目されているのは、データソースが増え、活用の可能性が大きく広がったからだ。動画、音声、イメージデータ、あるいはブログ、ツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアの情報、携帯電話やスマートフォンなどモバイル端末が捉える位置情報、さらには、ビルや車に設置されている各種センサー、ICカードなどのデータも、リアルタイムに活用できるようになった。
しかもITの進化により、膨大なデータをこれまでに比べると格段に低コストかつ高速で、保存・管理・分析・共有・活用できる環境が整った。
さらに、ビッグデータ活用の成功事例として、グーグル、アマゾンなどのネット系企業はもとより、日本国内の自動車メーカー、航空会社、保険会社なども次々に紹介され、ビッグデータの重要性を誰もが深く認識するようになったのである。
リアルタイムデータで
経営に「スピード感」
ビッグデータが価値を発揮するのは、ネット系企業に限ったことではない。
「今まで捕捉していなかった、あるいは入手してもすぐに廃棄していたデータを利用することによって得られるビジネス価値は、一般企業の場合にも極めて大きい」と栗原氏は言う。
ビッグデータ活用の魅力の一つは、リアルタイムなデータを使って、現状を分析し、即座に行動を起こせることだ。
いまや、一般消費者の生活リズムはリアルタイムが基本となり、通販会社は注文の翌日配達どころか、当日配達にしのぎを削っている。海外企業、特に米国の流通業は、現状の需要の変化を読んで在庫を最適化するノウハウを積んできた。
「前年・前月の売り上げ情報を中心に意思決定をするようなやり方で競合するのは、ますます困難になっています。世界を相手にビジネスするなら、競争の土俵に上がるためにもビッグデータ活用が不可欠です」と栗原氏は語る。