TPPのサポートで病院が建ったら次に必要とされるのは、日々使われる注射器やガーゼなどの医療材料の調達・管理であり、二つ目の事業「メディカルサプライ(MSP)事業」を立ち上げた。
さらに「医療と介護のシームレスな関係が必要」との病院側の要望に応え、老人ホームなどを運営する「ライフケア(LC)事業」も展開。病院とは切っても切れない存在として、「調剤薬局(PH)事業」にも進出する。LCとPHからは、入居者やその家族、患者が「今何を望んでいるのか」が分かる。新たに、その望みに応えるための「ヘルスケアサービス(HS)事業」も始めた。
「今ではよく見掛ける、病院と老人ホームを一体化した施設を造ったのも弊社が最初です。TPPはいわば自分たちで耕して畑を作ること。MSPは耕した畑から収穫することです。弊社は耕し方を熟知していますし、自分たちで耕した畑からは、日進月歩の医療現場の要望を日々お聞きできるので、『旬なタイミング』で旬な対応ができます」(古川氏)
「宮大工」のような人材を育成したい
コロナ禍は、B to B専門だった同社に、B to C領域への可能性を開いた。例えば、臭い・菌・ウイルスを「オゾン」の力で取り除く低濃度オゾン発生装置『エアネスⅡ』や、国産のサージカルマスク『SHIPマスク』の取り扱いだ。
「B to Cはまだまだ素人ですが、医療現場と製造元企業、双方からの要望で事業化しました。これまでの積み重ねがあったからこそ実現できたのです」(古川氏)
SHIPの「I」であるイノベーションへの挑戦も積極的だ。
2018年には大阪国際がんセンター(旧大阪府立成人病センター)に隣接した「大阪重粒子線センター」を開業。これまでに約1200人のがんを治療してきた。また21年6月からは、MSPにおける関西圏の基幹医療材料ロジスティックセンターとして「大阪ソリューションセンター」が本格稼働。庫内には自動ラック倉庫やAGV(無人搬送車)、RFIDなど最先端の物流システムを取り入れ、関西一円の配送ニーズに迅速かつ正確に対応する体制を構築した。この他、ミャンマーやバングラデシュなど新興国での病院建設や、運営サポートも着々と進んでいる。
「重粒子線センターのような巨大事業も、きっかけは日々の対話からでした。理念にのっとり、ビジネスに反映させていく限り、弊社の今後の展望・展開は無限です」(大橋氏)
理念の継承と浸透において、最重視しているのは人材育成だ。
「『人間力』を高めることを教育の柱とし、『10年で一人前』を合言葉に、何にでも精通している『宮大工』のような人材を育てています」(古川氏)
創業から29年、21年3月期の連結業績は、売上高4971億円で医療機器流通分野では日本トップクラスだ。次なる目標は「1兆円企業」。理念の「SHIP」に乗って、1兆円の大海へ。荒波を乗り越える航海は続く。