一方で懸念材料もある。それは世界的に高まっているサイバー攻撃のリスクだ。近年、企業が攻撃にさらされる事件が頻発している。政府は2020年9月、ドローンの調達をセキュリティーが担保された機種に限定する方針を打ち出した。日本でも普及している中国製ドローンを新たに導入することが難しくなっているのだ。

 そうしたニーズに応えるとともに、現場のことを考えて開発されたのが小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」だ。

「SOTEN(蒼天)」

 SOTENは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「安全安心なドローン基盤技術開発」事業に採択されたコンソーシアムによって開発された。そのコンソーシアムにはACSLを筆頭にヤマハ発動機、NTTドコモ、ザクティ、先端力学シミュレーション研究所(ASTOM R&D)が参加したが、ACSLが中心的役割を担った。

 企業規模の異なる5社をまとめるのは容易ではなかったが、同じ民間企業であることで5社は団結し、課題を共有することで乗り越え、プロジェクトの成功へとこぎ着けた。「シェアを取っている中国製や外国製ドローンに勝たなければならないという共通認識があったことも大きかった」と鷲谷氏は打ち明ける。

高いセキュアと飛行性能を誇るSOTEN

 SOTENの最大の特徴は、セキュリティー対策だ。

「ドローンは、ただ飛ばすだけのホビーとしての存在だったのが、インターネットにつながりいろいろな現場で使われるようになってから、さまざまなデジタルデータを取得するようになりました。それらをどうやって守っていくかという気運がここ数年、高まっています。私たちが社会インフラ向けに展開していくためには、セキュリティーの担保は不可欠なのです」

 SOTENは、コンピューターセキュリティーのための国際規格であるISO15408に基づき、約2500項目にもおよぶセキュリティー上の脅威に対応し、データの漏えいや抜き取りの防止、機体の乗っ取りへの耐性などを高めている。また、機体の主要部品には国産品や信頼性の高い調達品を採用。通信・撮影データの暗号化、国内クラウドでの取得データの保護などによってセキュリティー強化を図り、セキュアな国産ドローンを実現している。「産業用でこれだけ厳しいセキュリティー対策を講じているメーカーはほかにない」と鷲谷氏は自負する。

 ACSLが国産にこだわるのは、モーターやカメラ、センサーなど日本の高い技術を広めたいという思いもあるが、経済安全保障の観点もある。

「こうした社会インフラを支える技術は、ある程度、国内で保有していないとリスキーですし、国内で製造していくことは、経済安全保障としての意義も大きいと考えています。ドローンの次の産業が発展する可能性にもつながるのではないかと考えているので、当社としては、まずはこの技術をしっかりと世の中に広めていきたいです」(鷲谷氏)

 そのほかSOTENが海外勢に対抗する上で強みとなるのは、同社独自の自律制御システムだ。競合製品とは全く異なるアルゴリズムによって、高い飛行性能を発揮する。ドローンが飛行する上で最大の敵となるのは風だが、SOTENの最大対気速度は15m/s。鷲谷氏によると、同スペックの他機種は10m/s程度なので、1.5倍の耐風性能を実現しているのだ。

 また、準天頂衛星システム「みちびき」のサブメータ(誤差1m以下)級測位補強サービスを搭載しており、一般的なドローンよりもはるかに精度の高い位置情報を取得できるようになっている。日本の衛星システムを利用するのは、「SOTENを国産ドローンのフラグシップモデルにしたい」(鷲谷氏)という狙いもある。

 利便性の高さも特徴の一つだ。SOTENはカメラが着脱式になっており、4種類のカメラを付け替えることができる。一般的な小型ドローンの場合、カメラと本体が一体になっている。しかし、山などの災害現場で使用する場合、リュックにドローンを何個も詰め込むことはできない。そうした不便を解消するために、1台のプラットフォームで4種類のカメラを自在に切り替えられるようにしたのだ。 

カメラは着脱可能で、4種類のカメラを自在に切り替えて使える

 

アーム収納時のサイズは、幅162mm×高さ363mm、重さは1.7kgと携帯性に優れる

「簡単なように見えますが、開発には苦労しました。別のカメラが装着されたということを本体が認識しなければならず、信号のやりとりなど、裏側でかなりつくり込んでいます。なおかつセキュリティーも担保しなければならず、かなり高度な技術が必要でした」

 もう一つの特徴は、幅広い拡張性だ。SOTENは、LTE通信もオフライン地図も活用することができる。LTE通信の活用により、インターネットを介したドローンの操縦が可能なため、山間地やプラント内などの遠隔地において、補助者なしでの目視外の自動飛行(Level3)が可能だ。

 一方、インターネットが使えない環境でもコントロール側の基地局アプリにオフライン地図を表示すれば、ドローンを自動飛行させることができる。現場のあらゆる環境を想定して開発されたのがSOTENなのだ。