システムのサイロ化がさらなるエクスペリエンス低下を引き起こす
業務エクスペリエンスの向上を図る際に立ちふさがるのが、門脇氏が課題として挙げる「システムのサイロ化」だ(下図参照)。
「おそらくどの組織も、より機敏でかつ革新的な組織でありたいと考えていることでしょう。しかし現実には、財務のためのSAP、人事のためのWorkdayやSAP SuccessFactors、調達のためのSAP AribaやSAP Concur、販売・マーケティングのためのSalesforce、Microsoft Dynamics 365など、部門を隔てるオペレーションのサイロ(分断)が存在します」(門脇氏)
これらのシステムには従業員のエンゲージメントを促進するため、独自のアクセスポータルが用意されていることも多い。
「しかし、従業員は、要求・問題解決のたびに、どの部門に連絡すべきか確認しなければならず、一方でシステム管理者もその都度、把握しなければなりません。結果として人間の手による、電話やメール、システムでのやりとりが必要になります。場合によっては、従業員は要求・問題解決のために異なるポータル、異なるシステムおよびプロセスを行ったり来たり、時にはたらい回しにされたりと、業務エクスペリエンスを著しく低下させています」(門脇氏)
一般的な企業における業務エクスペリエンス低下の具体例を、スライドとともに見てみよう。
問題になっているのは「業務・システムのサイロ化」だ。会社内で業務を遂行する上で、それぞれの部門内だけで完結することは少なく、部門間のコラボレーションが必要となる。しかし、多くの組織で情報のサイロ化が起こり、うまく連携できない状態になっている。例えば、下図のように各部門で個別最適化されたシステムを利用している場合、この状態で業務を行うとどうなるのか。
「下図で示す新入社員の入社手続きならば、新入社員が人事部門とやりとりし、人事担当が必要な手続きを実施。同時に経理部門は経費振込口座の登録などを行い、必要備品の発注・購買も行います。IT部門でもパソコンの手配・アカウント発行なども行わなければいけません。しかし常にシステムが部門間を分断し、連携がうまくできない状態のため、メールや電話でのやりとりが発生したり、システム間のデータをファイルで連携したり、2カ所に同じことを入力してもらう必要が生じたりします」(門脇氏)
受注~売掛金回収の業務も同様だ(下図参照)。カスタマーサポートが追加発注の問い合わせを受け、営業部門担当者に連絡。営業部門では見積作成・契約手続き・受注登録の処理を実施。受注処理が完了すると製造部門が在庫確認・引当処理・出荷処理を行う。最終的には経理部門で請求書を発行し入金確認が行われる。
「複数の部門・システムを介している点は入社手続きと同様ですが、特にこのケースでは、顧客から見て『自分の注文依頼がどこまで進んでいるか』が分かりにくく、顧客のエクスペリエンス低下も招いています」(門脇氏)