「鉄道を基軸とした総合物流企業グループの実現」を長期ビジョンに掲げる日本貨物鉄道(JR貨物)。環境特性と労働生産性に優れた鉄道輸送の特性を生かしつつ、トラックなど他の輸送モードとの連携を強めることで、高い社会価値の提供を目指す。キーワードとなるのは、モーダルシフトを超えた”モーダルコンビネーション”だ。
JR貨物は、わが国で唯一の全国規模の貨物鉄道会社。同社の貨物列車が1日に走行する距離はおよそ19万キロメートル、地球約5周分にも達する。
SDGs(持続可能な開発目標)の世界的な高まりを受け、物流における脱炭素化(カーボンニュートラル)が大きなテーマとなる中、事業活動そのものが物流の脱炭素化に直結する同社の存在は貴重だ。
ブロックトレインで物流の脱炭素化を後押し
和氣総一朗
執行役員 鉄道ロジスティクス本部 営業部長
鉄道ロジスティクス本部の和氣総一朗執行役員営業部長は「貨物鉄道のCO2排出量は、トラックの約13分の1、船舶の約2分の1と圧倒的です。また、ドライバーなどの労働力不足の懸念が高まる中で、10トントラックで最大65台分の大量貨物を1編成の貨物列車で運ぶことができる。この優れた労働生産性も大きな魅力」と説明する。
つまり、「物流の脱炭素化」を実現していくためには、物流全体に占める貨物鉄道の利用率を高める必要がある。そのために同社が今取り組んでいるのが「ブロックトレイン」の拡充だ。ブロックトレインとは、列車1編成の半分以上をブロック(区画)単位で貸し切り、往復で輸送する専用列車。現在、積合せ貨物や自動車部品向けに全国で10往復の列車が運行している。「お客さまにとっては、年間を通じて安定的な輸送力を確保できること、オーダーメイドでの列車設定が可能になるのがメリットです。地球環境にも配慮した輸送手段を活用しているというPR効果も絶大です」
物流業界では2024年4月からトラックドライバーの時間外労働規制が強化される「2024年問題」が控えており、運ぶ手段をいかに安定的に確保できるかが焦点となりつつある。「その点からも、貨物鉄道への期待の高まりを肌で感じています。今後は食品業界をはじめ業界単位でのブロックトレインの共同利用などを積極的に提案していきたいと考えています」と意欲を見せる。
物流の強靱化でお客様のサプライチェーンを守る
一方、社会インフラである物流の持続可能性を確保するためには、災害時などに強い「物流の強靱化」(レジリエンス)を図ることも欠かせない要件となる。特に近年は自然災害の頻発化・激甚化が目立っており、貨物列車が走行する在来線ルートもたびたび寸断に追い込まれている。今後は予防保全などによる在来線インフラの強靱化に加え、輸送障害が起きた際の代行輸送力の確保がより大事になる。
「今後はトラック、船舶など他の輸送モードとの結節をより向上させ、いざというときの代替可能性を高めていきます」と和氣氏。昨年夏に発生した輸送障害では、貨物駅間でのトラック代行や船舶による代行輸送に加えて、東京~福岡の長距離輸送において関西に中継点を設けてトラックのドッキング輸送を行うなどの新たな試みも実施した。「何よりもお客さまのサプライチェーンをお守りすることを第一義に、今後は貨物駅を経由しない戸口から戸口までのトラック代行輸送も検討していきます」と、柔軟な姿勢を強調する。