マンションの住民にとって、電気やガスと同じように毎日の生活にエレベーターは欠かせない。しかし、エレベーターの耐用年数は20~25年程度。どれだけメンテナンスを行っていても、劣化は免れない。安全・安心面からも、耐用年数を超えたら、リニューアルを視野に入れる必要がある。

 高経年マンションは、建物の躯体や給排水管などの設備の老化に注目が集まりがちだが、エレベーターの老朽化も真剣に考えなければならない大きな課題だ。高層マンションや高齢者が多いマンションでは、エレベーターが止まると住民の外出が困難になり、日常生活に大きな支障が生じる。

耐用年数を超えると修理が難しい

エス・イー・シーエレベーター
首都圏事業部長補佐 兼
リニューアル営業部 部長
若杉好人

 マンションのエレベーターは、住民の生活インフラであり、夜間や休日に人がいなくなるオフィスビルなどと異なり、365日24時間稼働し続け、子どもから高齢者まで幅広い年齢層の住民が利用するものだ。ゴミ出しの際のゴミ袋からの液漏れや泥などで汚れたりもする。

 つまり、オフィスビルよりハードな使用状況にあり、劣化も進むことを意識しておきたい。安全に故障せず稼働し続けることが求められるエレベーターであるからこそ、古いものはリニューアルする必要があるのだ。

 もちろん、法定点検(定期検査)や定期点検をはじめとするメンテナンスをきちんと行っていれば、エレベーターは故障せずに動くだろう。しかし、独立系エレベーターメンテナンスサービスのパイオニアであり、メーカーとしての開発力を持つSECエレベーターのリニューアル営業部部長の若杉好人氏は、「それでも限界はある」と、指摘する。

 エレベーターの税法上の法定耐用年数は17年、設備機器の耐用年数は20~25年といわれている。耐用年数に達したエレベーターは、機械機器の老朽化により初期性能が発揮できなくなっていることに加え、機種の製造中止後20年を目安にメーカーが保守部品の供給を停止するため、修理が難しくなるからだ。

日本全国で5万台以上ものエレベーターの保守・メンテナンスを行い、自社でエレベーターを独自開発するメーカーとしての技術力も誇るエス・イー・シーエレベーターだからこそ見える「マンションのエレベーターの現実」がある

 そして、それよりも危惧されるのは、安全性の問題だ。建物同様エレベーターも、時代に合わせて安全基準や耐震基準が繰り返し見直されてきている。

「2009年から新設のエレベーターには、エレベーターの扉が開いたままの走行やかごの停止位置が著しくずれた場合に停止して人が挟まれるのを防ぐための戸開走行保護装置(UCMP)、地震の際に最寄り階で停止してかご内に人が閉じ込められることを防ぐ地震時管制運転装置の設置が義務付けられています。

 それ以前に設置されたエレベーターは、地震の際の安全や事故を未然に防ぐためにも早急な対応が必要でしょう」と若杉氏は警鐘を鳴らす。

 加えて、盲点なのが床マットだ。土足で利用するエレベーターの床マットには、雨水などの水分が染み込む。明らかな汚れと異なり、表面が乾いていれば気にもしないだろう。しかし「床マットを外してみると、長年にわたり染み込んだ水分で床面に錆びが生じて穴が開いてしまっていることもあります」と若杉氏は言う。もちろんそうした場合には補修工事が必要だが、古いエレベーターには、目に見えない劣化もあるのだ。