毎年3月に国土交通省が発表する公示地価で、例年全国トップ3を占める銀座。その中央通り沿いの日本生命銀座ビルに本社を置く正社員専門の人材紹介会社がエリートネットワークである。今年で創業25周年を迎える同社を取材した。
「当社が支援した転職者の定着率は他の人材紹介会社に比して圧倒的です。ある自動車会社では過去10年間さかのぼっても断トツでした」。エリートネットワークの執行役員で転職カウンセラー歴25年の髙橋寛氏は胸を張る。この驚異的な定着率は、髙橋氏らカウンセラーによる、企業と転職者とのマッチングが最適であった証しだ。
1300人超が寄稿 感謝をつづった転職体験記
カウンセリング事業部 執行役員髙橋 寛氏
同社の特徴は「効率ではなく、何よりも効果を重視する」こと。例えば、通常、大手の人材紹介会社では、人材を採用したい企業を担当する法人営業と、転職希望者を担当するカウンセラーは別部署となっているが、同社では双方を兼務する。法人営業は転職希望者との面識は一切なく、転職カウンセラーは一切企業への訪問取材をしないで案内するという問題を解消するためだ。「転職希望者が本当に必要とするのは求人票には載っていない情報です。私たちは法人営業として徹底的な取材で最低150社以上を熟知してからスタートします。だからこそ、企業の実態やカルチャーについて表面的ではないお話をすることができるのです」
そう断言するのは、カウンセラー歴23年の横関綾子氏。旅行会社のツアーデスクの説明でも、実際に現地を訪れたことのある人とそうでない人の説明は全く質が異なるのと同じだ。カウンセラーが企業訪問で集めたリアルな情報は、転職者にありがちな「こんなはずじゃなかった」を回避し、ミスマッチの懸念を極限まで減らす。
カウンセリング事業部横関綾子氏
転職希望者へのフォローのきめ細かさも他社の追随を許さない。まずは担当カウンセラーが直接会って要望を聞き、その後、複数のカウンセラーでどの企業がふさわしいのかを検討する。転職先が決まるまでの平均期間は3~4カ月、長い人では1年に及ぶ。
初回の90分ほどの面談(コロナ下ではオンラインで実施)後も、1人の担当者が継続して5回、10回とフォローを繰り返す。いわば二人三脚で転職活動を進めるのだが、大切にしているのは猜疑心を払拭し、安心して本心を開示してもらえる関係になることだ。
「最初から本音をお話しくださる方はまずいません」と、理系の転職にめっぽう強いカウンセラーの保坂雄大氏も言う。
カウンセリング事業部保坂雄大氏
誰しも、今勤めている会社のマイナス面は口に出しづらいもの。しかし、本人が感じる本心の「心象事実」の中にこそ、譲れない仕事へのこだわりや絶対に避けたい内容が隠されているのではないだろうか。
さらに、マッチングの精度を高めるべく、カウンセラーの習熟度のばらつき、求人情報の偏り、縄張り意識などを避けるための工夫にも手を尽くす。例えば、法人営業には担当者以外の他のカウンセラーも複数人が共に同行取材する。毎朝定例のカンファレンスを設けて議論し、いちカウンセラーだけのノウハウに依存しない会社レベルの提案が可能な仕組みを作っている。
こうした同社の姿勢がよく分かるのが、ホームページに掲載されている「転職体験記」だ。2022年5月11日現在、1356人分の具体的な体験記を読むことができるのだが、これほどの蓄積は、他社にはないだろう。しかも、これらは全てボランティアで書かれており、原稿料などは払っていないという。これもまた、同社を利用した転職者の満足度がいかに高いかを雄弁に物語っている。
内容を見ると、担当カウンセラーとのエピソードが多く、両者の良好な関係性を基に、転職活動が進められたことが察せられる。相手から受けた厚意などに対し「お返し」をしたいと感じる心理を「返報性の原理」というが、カウンセラーへの信頼や満足度の高さがひしひしと伝わってくるのである。