問いかけをベースに
未来へアプローチする手法

 企業の人材育成の観点から有用性が注目されているコーチングは、1980年代に米国で生まれ、2000年代の初期に日本に伝わってきた。日本ではスポーツ分野のコーチングが知られているが、ビジネスにも転用できるコンセプトだ。

 例えば白い球体だと思い込んでいる人に、さまざまな方向から見るように促す質問を投げかけると、反対側から見ると黒く見える、上から見ると楕円形だと気付く。このように、先入観によって狭まっている視野を広げる効果が期待できるため、「正解がないこの時代、目的達成までの道筋が見えないときに、コーチングの『会話の型』を使うことが統合的な決断への近道になります」と桜庭氏は語る。

 コーチングと混同しがちなコンセプト(図参照)に、ティーチング、カウンセリング、コンサルティングがある。コーチングは、盲点や潜在的な視点を顕在化させる質問をクライアント(コーチングを受ける側の人)にすることで目標を定め、そこへ到達するプロセスを明確にし、クライアントが主体的に目標達成することを支援する。教師と生徒の関係となって物事を教えるティーチングや、適切な助言を与えるカウンセリング、過去の問題に着目して新たな解決手段を提供するコンサルティングとは目線が異なり、「未来志向」といえる。

業種、規模にかかわらず
効果があるコーチング

 ではコーチングはどのような企業に効果があるのだろうか。そんな問いに、桜庭氏は会社の歴史の長さや業種などには影響されないと答える。例えば、創業100年、従業員1万人を超える重厚長大企業が桜庭氏のコーチングを導入した。その結果、管理職を「今までのやり方が正解」という思い込みから解き放ち、アドバイスができない自分は管理職として不適格という不安が解消され、組織の活性化がなされたという。社風により、効果の表れに早い遅いはあるが、どんな企業にも有効だという。