IBMからITインフラサービス部門がスピンオフして誕生したキンドリル。テレワークが政府からも推進されている今、デジタルを活かした「場所にとらわれない働き方」はどのように実現すればいいのだろうか。戦略的なデジタル化を軸に、企業の成長や、従業員の満足度を上げている施策成功の秘訣を聞いた。

キンドリルジャパン
澤橋松王 執行役員 最高技術責任者
2021年9月より現職。2019年技術理事就任。オファリングとチーフアーキテクト部隊を統括。2012年よりチーフアーキテクトとして日本中のお客様のITのあるべき姿とロードマップを提案。

 キンドリルは2021年9月にIBMのインフラストラクチャーサービス部門が分社化、設立された会社である。全世界に9万人の従業員を擁し、金融、エネルギー、交通・航空関係など、社会基盤を担う顧客をメインに、信頼性の高いテクノロジーサービスを提供している。

 そのキンドリルが現在力を入れているのが、テレワーク時代のデジタルワークプレースの提案だ。企業の持続可能な成長のためには、多様な人材の確保が必要で、従業員エンゲージメントを向上させる必要がある。従業員エンゲージメントとは、「企業から与えられる環境」に対する満足度ではなく、「この企業で働き続けたい」という意思の源泉となるものだ。

 執行役員の澤橋松王氏は、「多様な人材の従業員エンゲージメントを高めるためには、システムに三つのフリーが必要だと考えています」と話す。

 

 

場所やデバイス、セキュリティーに
制限されない働き方を実現

 一つ目が、場所にとらわれない働き方を実現する「プレースフリー」である。企業の多くは、社内でしか使えない標準パソコンによって働く場所が制限されたり、リモート勤務が増加して物理的なオフィスが形骸化したりしている課題に直面している。

「当社では、数多くの企業へVDI(仮想デスクトップ基盤)の構築・運用を支援した実績とノウハウに基づいて、多様な機器の使いづらさや不便さを解消し、ITを活用した場所を問わない業務の実現を支援しています。さらに、最新のテクノロジーを熟知した1級建築士を含む専門家集団が、物理的なオフィスとデジタルを融合した新たなワークプレースの可能性を提案しています」(澤橋氏)

 二つ目が、あらゆるデバイスで快適に仕事ができる「デバイスフリー」。企業によっては、デバイスの選択肢が少ないために従業員の行動や成果が制限されてしまうこともある。キンドリルでは、従業員の多様なニーズと要望に応えて多様なデバイスを利用できるようにしている。

 例えば会社支給の標準パソコンだけでなく、使い慣れた自己所有のタブレット、スマートフォンなどでも仕事ができる環境を支援。「当社でもこのデバイスフリーの実現によって、複数のデバイスや付随する備品などの持ち物が多かった、外出の多い社員から非常に歓迎されています」とテクノロジー本部デジタルワークプレース担当理事、秋吉香織氏も語る。 

 そして三つ目が、セキュリティーに関する制約からの解放、「リミテーションフリー」だ。社内ネットワークと外部ネットワークの境界にファイアウオールなどを設ける従来の境界型セキュリティーモデルではテレワーク時代にそぐわない。

 キンドリルでは、ゼロトラスト・アーキテクチャー、簡単に言えば社内外を問わずに全てのアクセスや端末、ネットワーク状況を信用せずにその都度ごとに検証するといった新たなセキュリティーモデルと、従来の境界型セキュリティーと両方で構築。どこからアクセスしても使用する人への負荷がかからないセキュリティーレベルの維持・向上と制限の緩和を両立させている。

「セキュリティーレベルを上げれば上げるほど、煩わしさが増すと思い込んでいる方も多いのですが、全く違います。キンドリル自身が、すでに社内のイントラネットを使わずインターネット上のクラウドシステムを利用して、リミテーションフリーを実現しています。従業員はブラウザを立ち上げたらすぐにメールやファイルにアクセスできる快適な環境を、セキュリティーを意識せずに享受しています」と澤橋氏は話す。