これまで個人の健康管理にしか使われてこなかったライフログデータ、企業などが大量に保有しているが一部しか活用されていないビッグデータ。日本のR&D(研究開発)を加速させるには、これら二つのデータを連携させて役立てることが不可欠だ。それを実現させる画期的なヘルスケア・プラットフォームを開発したヴェルトの野々上仁代表取締役CEOに話を聞いた。
真偽は不明だが、かのアインシュタインは「人間は潜在能力の10%しか引き出せていない」と語ったとか。人類がいまだ使いこなせていない価値あるものは多々あるが、今最も注目すべきは「ヘルスデータ」だろう。
実はヘルスデータは、二つに大別できる。一つは、診療・研究機関の検査データといった患者・被験者のデータ、あるいは企業が所有する専門領域のデータなど。仮にこれらを「キュアデータ」と呼ぶ。もう一つは、日常生活の中で記録された個人の「ライフログデータ」(人間の生活や活動・行動を記録したデジタルデータ)だ。
宝の持ち腐れだった
ライフログの活用を実現
一般的にAIが扱うビッグデータもキュアデータに相当し、整理された「クリーン」なデータであることが多いが、スマートウオッチやスマートフォンなどで記録したライフログデータは、多種多様で整理されていない「ダーティー」なデータが多い。
「クリーンデータは不純物などを取り除いた精製水のようなもの。対するダーティーデータはさまざまな要素が混ざり合った“川の水”です。膨大な情報が含まれているにもかかわらず、川の水はこれまでほとんど活用されてきませんでした」と野々上仁CEOは解説する。
つまり、ライフログデータを使わないのは、まさに宝の持ち腐れというわけだ。
代表取締役CEO
野々上 仁氏
そこでヴェルトは、この二つのデータ、研究機関や企業内のキュアデータと個人のライフログデータを連携させて、因果関係を解明するヘルスケア・プラットフォーム「Data EthnographyTM(データ・エスノグラフィー)」を開発し、2022年8月から提供を開始した。
過去、2種類の“異なる世界”のデータを、同時に扱うのは困難で技術的なハードルが高かった。しかしヴェルトは、ライフログデータの特徴ともいえるカオス状態のスモールデータを整理する独自技術「SmallyticsTM」を開発し、ビッグデータなどのキュアデータとひも付けて検証することを可能にしたのだ。
同時に、この技術を搭載したスマホ用の自社開発アプリ「you’dTM」も提供している。
例えば、企業や研究機関などが利用者の承諾を得て、このアプリを用いれば、自前で所有するビッグデータなどと連携してさまざまな検証が可能になり、R&Dに活用できるというわけである。
さて、このヘルスケア・プラットフォームであるデータ・エスノグラフィーを使えば、具体的には何ができるのだろうか。